~過剰装備が救助を危険にする~
救助現場で「安全のため」と称して、実は必要のない装備が使われていることは少なくありません。特に、低角度(ローアングル)でのロープレスキューでは、過剰な装備が作業の複雑化や効率の低下を招く要因になることもあります。本記事では、ローアングルレスキューの正しい理解と、実践的なアプローチについて考えていきます。
低角度(ローアングル)救助とは?
まず、「低角度(ローアングル)」とは何を指すのでしょうか?
傾斜によってロープレスキューの分類は以下のようになります。
・平地(フラット):0〜15度
・低角度(ローアングル):15〜40度
・急傾斜(スティープアングル):40〜60度
・高角度(ハイアングル):60度以上
低角度(ローアングル)とは、隊員が自らの足で地面を踏みしめて行動できる範囲の傾斜を意味します。ここでのロープは「主な支持」ではなく、「補助的な支え」にすぎません。つまり、隊員の足元がメインの支点になる環境が「低角度(ローアングル)」です。
なぜ過剰装備になってしまうのか?
多くの救助隊員は、高角度訓練をベースにした装備や手順を無意識にそのまま使ってしまう傾向があります。たとえば:
・メインロープ+バックアップの二重システム
・ハーネスや自己確保装置の着用
・高架支点(Vortexなど)の使用
・4人以上の大人数による搬送
これらは高角度では必要な装備ですが、低角度ではかえって作業を複雑にし、機材トラブルや作業ミスのリスクを高めてしまいます。

ロープは本当に必要か?判断基準を持とう
ロープが必要かどうかを判断する際、以下のポイントをチェックしましょう。
滑落したとき、すぐに止まれるか?
滑り落ち続けるか?
地面の状態は?(砂利・岩・氷など滑りやすい?)
担架を落としたら、どこまで落下する可能性があるか?
隊員がバランスを崩しても、自力で体勢を戻せるか?
これらを冷静に見極めることで、「ロープが必要ない」場面もあると判断できます。
よくある誤解とその危険性
現場でよく見かける誤解のひとつが、「担架と隊員をハーネスで直接つなぐ」方法です。
しかしこれには重大なリスクがあります。担架が動けば隊員も引きずられ、バランスを崩して共倒れになる可能性があるからです。
また、隊員がロープに体重をかけて後傾姿勢になると、足元とロープの張力が拮抗し、不自然な姿勢で踏ん張りが効かなくなります。結果として、転倒のリスクが上がるのです。
さらに、低角度なのに引き上げシステム(MA)を構築することも問題です。人力・機材・時間が無駄に増えるだけでなく、アンカーへのテンションが過剰となり、故障や事故の原因になります。

実践的な低角度救助の方法
低角度の救助では、シンプルな方法で十分です。
担架は4人程度で直接持ち運ぶ ウェビングを肩にかけて負担を分散
必要に応じて、担架に添えてバックアップロープを一本設置(クローブヒッチで固定)
基本装備はヘルメットのみ(落石・転倒対策)
ハーネスや二重ロープシステムは不要
このように、最低限の装備で、安全かつ効率的な救助が可能です。
状況別の対応:上り・下りの違い
状況に応じて次のように判断します。
【上り】
隊員が担架を持ってそのまま歩行できる場合は、ロープは不要。
必要な場合でも、あくまで進行方向の補助(directional assist)程度にロープを使います。
【下り】
担架を持って前向きに歩行できるならロープは不要。
もし後ろ向きで下がる必要があるなら、その場所は「高角度」に近い傾斜だと考え、装備や手順を再検討します。
最後に:一番重要な判断基準は「転倒の結果」
最も重要なのは、「隊員が転倒したとき、どうなるか?」という視点です。
自力で体勢を戻せる → 低角度 滑落が続く恐れがある → 急傾斜・高角度
この判断基準を明確に持つことで、無駄な装備や誤った手順を減らすことができます。
まとめ:低角度は“シンプル”が正解
低角度救助では、装備を削ぎ落とした方がかえって安全です。
「訓練でやっているから」ではなく、「その現場に本当に必要か?」という視点で装備と手順を見直すことが重要です。
ローアングルレスキューこそ、原点回帰して「シンプルかつ安全に」取り組みましょう。