火災調査実務「床面掘削」から「焼損物の復原」までを丁寧に解説。火元特定のための観察ポイントや安全な作業手順、警報器の確認方法も詳しく紹介。
■ 床面付近までの掘削作業
火災現場では、出火室内に落下した瓦、天井材、壁の崩落片、さらには上階から落ちた家具・家電などの**「覆い被さった焼損物」が、床面に厚く積もっていることが多くあります。

まずはこれらの障害物を一つずつ丁寧に取り除き、出火室の床面が見える状態にまで掘り進めていく**作業が必要です。
このとき重要なのは、構造物の再崩落や床面の破損による落下の危険性を常に意識することです。特に集合住宅や古い木造建築では、焼損によって構造強度が著しく低下している可能性があります。

作業の際は、以下の点に留意して進めます:
荷重が集中している場所には乗らない 撤去物は一時的に床に積み上げず、安全な集積場所に移動させる チーム内で声を掛け合い、上部や周囲の安全を常時確認しながら作業する
■ 焼損物の形状確認(収容物の浮き彫り)
掘削作業を進めると、焦げて変形した収容物(家具・家電など)の焼損形状が徐々に姿を現します。
ここでは、**火元を特定するための「焼け方の違い」や「可燃性物質との位置関係」**を慎重に観察する必要があります。
むやみに物を動かすと、焼け跡や炭化状態が損なわれるため、以下のような手順で形状確認を行います:
見えてきた物体の炭化範囲や向き、焼き抜け具合を視認 焼損物の配置が重なっている場合は、上部から順に分解・確認する 元々その位置にあったことが確実な物については、**「元位置保持」**を優先し記録を行う

■ 収容物の復原(復位)
焼損物の位置が不自然だったり、倒れていたりする場合には、可能な範囲で元の配置へ復原する作業を行います。
この作業は、「どこに・何が・どのようにあったか」を再現することで、出火場所の特定や火災拡大の方向性を明らかにする上で非常に有効です。

復原時のポイントは以下の通りです:
焼け跡や炭化痕、焦げの方向性などを観察し、位置・角度を推定する 例:倒れた電気ストーブを起こし、コードの位置やスイッチの状態を記録 例:焼けたソファの脚の痕跡が床に残っていれば、元の向きに配置を戻す
復原はあくまで「推定復位」であるため、必ず写真やスケッチ、記録を残し、復原前後の状態を比較できるようにすることが重要です。

放火の可能性がある場合の対応
火元周辺の焼損物の中で、可燃性液体や着火装置などの痕跡があれば、証拠物として焼損残さを採取。警察と連携して鑑識対応を行う。
住宅用火災警報器(住警器)の設置状況の確認
建物内に法令・条例に沿った住警器が正しく設置されているか確認。設置義務がある部屋に未設置の場合は記録しておく。 警報機・消防設備の作動状況の確認 住警器や報知器、スプリンクラーなどの作動・不作動の状況を確認。不作動の原因が電源喪失か経年劣化かも含めて調査する。

【注意点】
警報器が溶け落ちていると内部回路の確認は困難です。 電池切れや故障で作動しなかった可能性もあります。 火災原因調査報告書には、「作動の有無は不明」とせざるを得ない場合も多いです。
🔥 火災原因調査【実践編パート3】チェックリスト
■ 床面掘削時の安全確認
- □ 床上の障害物を一つずつ丁寧に撤去する
- □ 荷重が集中している場所には乗らない
- □ 撤去物は安全な集積場所へ移動させる
- □ 構造物の再崩落や床抜けに常に注意
- □ 作業中はチームで声を掛け合い安全を確認
■ 焼損物の形状確認
- □ 炭化範囲・焼き抜け状態を観察
- □ 可燃性物質との位置関係を記録
- □ 上部から順に丁寧に分解して確認
- □ 「元位置保持」を優先して記録する
■ 収容物の復原(復位)
- □ 焼け跡や焦げの方向から元の配置を推定
- □ 電気機器や家具の状態・向きを記録
- □ 復原前後の状態は写真・スケッチで記録
■ 放火の可能性がある場合
- □ 可燃性液体や着火装置の痕跡を調査
- □ 焼損残さを証拠物として採取・保管
- □ 警察と連携し、鑑識対応を実施
■ 火災警報器・消防設備の確認
- □ 住警器の設置状況を確認(法令遵守)
- □ 未設置部屋があれば記録しておく
- □ 住警器・報知器・スプリンクラーの作動状況を確認
- □ 不作動の場合は電源喪失や劣化を調査
⚠ 注意点
- □ 警報器が溶損している場合、内部確認は困難
- □ 作動の有無が不明なケースも報告に明記する