今回は、迅速かつ効率的な被害者の搬送技術として、ショルダーヒッチと呼ばれる方法をご紹介します。この技術は、消防士や救助活動に従事する方々にとって、非常に有用なテクニックです。特に、視界が悪い状況や時間が限られている場面で、その効果が発揮されます。
ショルダーヒッチの概要と利点
ショルダーヒッチは、救助者がウェビング(ロープ)をしっかりと保持しながら、被害者を安全に搬送するための技術です。この方法の大きな利点は、救助者がプロセス全体を通じてウェビングを離す必要がないため、作業を迅速かつ効率的に行える点です。特に、視界が制限されたり、時間が制約されている状況では、ショルダーヒッチが非常に有効です。
また、この技術は、消防活動やサーチアンドレスキューオペレーション、レスキュタスクフォース(RTF)、戦術的緊急医療サービスチーム(THAMES)など、様々な応用が可能です。これにより、救助活動の現場での適用範囲が広がり、より多くの状況での使用が期待されます。
ガースヒッチとの比較とショルダーヒッチの優位性
ショルダーヒッチは、ガースヒッチやチェストヒッチといった技術と比較して、いくつかの重要な利点があります。まず、ショルダーヒッチでは、被害者に対する締め付け点がより快適な位置に配置されるため、被害者への負担が軽減されます。特に意識を失った被害者に対して、適切な位置に締め付け点を設けることで、不快感を最小限に抑えることができます。
また、被害者を引きずる際に、90度や180度といった急なターンを行う場合でも、被害者が顔を下にして転倒するリスクが大幅に減少します。これにより、搬送中の安全性が向上し、事故のリスクを低減することができます。
ショルダーヒッチにおける具体的な技術と応用例
ここでは、ショルダーヒッチの手順と技術的な側面について、さらに詳しく解説していきます。
ショルダーヒッチの基本手順
まず、ショルダーヒッチを始める前に、被害者の頭部に膝をつけて、足元に向かって座ります。この位置取りは、被害者を安定させ、搬送中に頭部を保護するために重要です。
1.ウェビングの準備と配置
ウェビングを展開し、ウォーターノット(結び目)がポケットから完全にクリアになるまで広げます。左手でウォーターノットの反対側にあるウェビングの中央部分を握り、ループを作成します。右手を左手の隣に置き、両手でウェビングをしっかりと持ちます。このとき、手のひらが上を向いている状態です。ウェビングを張り、左手を約45センチメートル離しながら、被害者の左手の下にウェビングを通し、脇の下まで滑らせます。
2.ウェビングの固定
左手をウェビングから離し、被害者の肩の上部で再び右手の隣に戻します。ウォーターノットが体から離れた位置に来るように、左手を右手から約45センチメートル右にスライドさせ、右手でウェビングをアンダーハンドグリップ(手のひらが上を向いた持ち方)で持ちます。その後、右腕の下からウェビングを上げて右の脇の下に挟みます。
3.ウェビングの最終調整
左手でウェビングをオーバーハンドグリップ(手のひらが下を向いた持ち方)で持ち、右手を滑らせながらウェビングを通します。このとき、水結びが右手のひらに届くまで調整し、結び目が指の付け根に位置するようにします。これにより、ウェビングがしっかりと固定され、手に感触が伝わりやすくなります。
4.搬送開始
ウェビングを適切に固定したら、救助者は被害者を引きずり始めます。視界が悪い状況でも、ウェビングがしっかりと保持されているため、安全に搬送を続けることができます。ショルダーヒッチは、急なターンや障害物がある場所でも、被害者が顔を下にして転倒するリスクを最小限に抑える設計になっています。
特殊な状況での応用技術
ショルダーヒッチは、基本的な技術に加えて、様々な状況に応じた応用が可能です。以下では、特定の状況での技術的な工夫を紹介します。
- ウェビングエクストラクションオフセット
狭い廊下やスペースの限られた場所での搬送時に使用される技術です。ウェビングに第二のループを取り付けることで、プロファイルを縮小しながら、被害者の重量を共有します。この技術により、救助者は狭い場所でも安全かつ効率的に被害者を搬送することができます。 - バイトを使ったウェビングの短縮
長いウェビングが必要ない場合や、余分な長さが作業の妨げになる場合には、ウェビングを短縮する必要があります。ウェビングを手で回しながら、手のひらに「バイト」(小さなループ)を作成し、それを持つことでウェビングを短くすることができます。この方法は、被害者を階段や狭い場所で引き上げる際に特に有効です。 - 階段での搬送技術
階段を使用する際には、ウェビングが摩擦を受けやすくなります。この場合、ウェビングの位置をこまめに調整し、摩擦を最小限に抑えることが重要です。ウェビングを引き上げる際に、被害者の頭部や肩を保護するために、適切なウェビングの配置と引き上げ方法が求められます。
ショルダーヒッチを使用する際のポイントとリスク管理
ショルダーヒッチは、強力で効率的な技術ですが、正しく使用しなければリスクが伴います。ウェビングの適切な配置や、搬送中の体勢の維持が重要です。また、技術を習得するためには、定期的なトレーニングとシミュレーションが欠かせません。
ショルダーヒッチは、救助活動において非常に有用な技術ですが、実際の場面でその効果を最大限に引き出すためには、十分な準備と練習が必要です。これにより、救助者も被害者も安全に活動を行うことができるようになります。
ウェビングの準備と保管方法
ショルダーヒッチを実行する際には、約1.7メートルのウェビングループが必要です。このウェビングは、12.5フィート(約3.8メートル)の1インチ(約2.5センチメートル)のチューブラーウェビングを使用して作られます。ウェビングの色は、明るい黄色がおすすめです。視認性が高く、暗い環境や視界が悪い条件下でも使用しやすいからです。
ウェビングを保管する際には、ウオーターノットの尾部が上に出ていることを確認し、ウェビング自体をできるだけきつく、コンパクトに巻いてください。保管場所としては、無線ポケットやパンツのポケットが適しています。これにより、緊急時にすぐにウェビングを展開し、迅速に救助活動を行うことができます。
ショルダーヒッチを使用する際の注意点とデメリット
ショルダーヒッチは、非常に有用な技術である一方で、いくつかの注意点もあります。例えば、ウェビングの適切な配置や使用方法を誤ると、搬送中の被害者に負担をかける可能性があります。また、ウェビングの質や保管方法が不適切であると、劣化や破損が発生し、救助活動中にトラブルを引き起こすことがあります。
このようなリスクを最小限に抑えるためには、定期的なウェビングの点検とメンテナンスが不可欠です。また、実際の救助活動に入る前に、ショルダーヒッチの技術を十分に練習し、適切な技術を身につけておくことが重要です。
まとめ
ショルダーヒッチは、迅速かつ安全に被害者を搬送するための効果的な技術です。その利点は、視界が制限された状況でも効率的に作業が行えること、被害者への負担を軽減できること、狭い空間での応用が可能なことなどが挙げられます。しかし、正しい使用方法と定期的なメンテナンスが必要であり、事前の練習も欠かせません。これらの点を押さえて、実際の救助活動で最大限の効果を発揮できるよう、準備を整えておくことが大切です。
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