フラッシュオーバーの理解と対策

消防

フラッシュオーバーの簡単な説明

火災が成長すると、部屋の上部に高温のガス層ができます。消防士は、個人防護具(PPE)と呼吸器(SCBA)を使ってこのガス層の下で活動します。

部屋の温度が上がると、家具やその他のものが加熱されて燃えやすくなります。温度が600度摂氏(1100度華氏)に達すると、一酸化炭素が発火し、高温ガス層で燃え始めます。これを「ロールオーバー」と呼びます。この燃焼が部屋全体に熱を放射し、部屋の中のすべてが同時に発火します。これを「フラッシュオーバー」と呼びます。

フラッシュオーバーが起こると、部屋全体が炎に包まれ、温度は1100度華氏以上になります。この環境では、完全な防護具を装着した消防士でも数秒しか生存できません。

フラッシュオーバーについて クレイグ・ニールセンとグレッグ・パスコラの見解

フラッシュオーバーにはいくつかの異なる定義がありますが、火災が進行する中で、内容物とガスが着火温度に達し、ほぼ同時に全ての表面で炎が発生する現象が最も理解しやすいです。この現象は、消防士が現場で最もよく遭遇する「ヒートリッチフラッシュオーバー」と呼ばれるタイプが一般的です。

ヒートリッチフラッシュオーバーの原因と現象

フラッシュオーバー、特にヒートリッチフラッシュオーバーの原因は「熱放射フィードバック」という現象です。火災の熱が部屋の素材に吸収され、素材が分解して一酸化炭素などの可燃性ガスを生成します。このガスが部屋全体に広がり、一定の温度に達すると、一斉に着火します。具体的には、火災の中心から放出された熱が壁や天井に吸収され、その熱が蓄積されて着火温度に達すると、全体が一気に燃え上がります。この現象は、火災の急速な進行を引き起こし、消防士にとって非常に危険です。

バックドラフトの理解と対策

バックドラフトは、急速火災進行(RFP)の一種で、火災現場で最も珍しいタイプの一つです。これは部屋の酸素が使い果たされ、高温の状態でくすぶり続ける火災が、ドアや窓を開けることで新鮮な空気が供給され、急激に再燃する現象です。バックドラフトは非常に危険で、爆発的に火が広がるため、消防士は特に注意が必要です。

遅延フラッシュオーバーの危険性

遅延フラッシュオーバーは、火災が別の部屋で始まり、その熱と煙が家全体に広がることで発生します。後方の寝室で始まった火災が、家全体に超加熱されたガスを送り込みます。消防士が建物に入ると、別の部屋で熱リッチフラッシュオーバーが発生し、急激な温度上昇によって家全体のガスが一斉に着火する可能性があります。これは消防士にとって非常に危険な状況です。

ロールオーバーの早期発見と対策

ロールオーバーは、ガスが天井付近で燃え始める現象で、天井近くに蛇のような火炎や細い火の筋が見えることがあります。これはフラッシュオーバーが発生する直前の状態であり、非常に危険です。消防士はこの兆候を早期に発見し、適切な対策を取る必要があります。

フラッシュオーバー防止のための具体的な対策

フラッシュオーバーを防ぐためには、火災現場のガスを冷却することが重要です。特に天井付近の高温のガスを直線の水流で冷却することで、火災の急速な進行を抑えることができます。ノズルのパターンや放水量が間違っていると、煙の層を混ぜてしまい、フラッシュオーバーを引き起こす可能性があるため、適切な水流の使用が求められます。

蒸気の膨張とその影響

水が蒸気になると、その体積は大幅に増加します。例えば、1128度で1ガロンの水が4200ガロンの蒸気に変わります。この膨張は火災の進行に大きな影響を与えます。狭い空間に大量の水を噴射すると、加熱されたガスが環境内に押し込まれ、フラッシュオーバーを引き起こす可能性があります。したがって、ノズルを適切に使用し、ガスを冷却しながら火災の中心に向かうことが重要です。

フラッシュオーバーは、通気が不十分な構造物で発生することが多いです。例えば、火災現場に到着し、軒下から煙が見える場合、それは通気がされていない構造物である可能性が高いです。私たちの仕事は、その火災三角形に対処することです。火災三角形とは、酸素、熱、燃料の三要素が揃って初めて火災が継続するという理論です。

火災三角形(ファイヤートライアングル)の重要性

現場に到着してドアを開けるまで、火災三角形は完了しません。ドアを開けると、新鮮な空気が入り込み、火災の中心に酸素が供給され、再燃します。このようにして火災三角形が完成します。私たちの使命は、その三角形の一つの要素を破壊することです。

通気とフラッシュオーバーの関係

水平通気や垂直通気を行うと、火災を加速させることがあります。通気が適切に行われない場合、フラッシュオーバーを加速させるリスクがあります。入口を確保し、適切な場所で通気を行い、ガスを排出して環境をクリアにする必要があります。これにより、火災の中心を迅速に攻撃できるようになります。

通気のタイミングと協調

通気のプロセスが協調されていない場合、通気が早すぎると、炎の速度が加速し、より大きな火災に直面することになります。例えば、水平通気でドアや窓を無作為に開けると、火災の成長を加速させることがあります。ホースラインが配置されていない場合も同様です。

環境要因の影響

フラッシュオーバーの認識は、現場に向かう前から始まります。天候データ、風向き、風速などが火災に影響を与えるためです。現場でドアを開けて後ろから強風が吹いている場合、その構造物に圧力がかかります。風が背中側から吹いている場合、または顔側から吹いている場合に応じて、異なる入口を選択する必要があります。

適切な進入方法

消防は、未燃焼部分から燃焼部分に向かって進入するのが一般的です。例えば、火災が後方の寝室で発生している場合、前方のドアを通じて進入し、火災を構造全体に広げないようにします。しかし、火災が後方の寝室の窓から激しく出ている場合は、窓を通じて直線的な水流を天井に向けて放射し、そのガスを冷却し、火災を一時的に鎮めることもあります。

フラッシュオーバーを遅らせる手段

消防士は、フラッシュオーバーを遅らせるためにノズルを道具として使用します。これは、直線的な水流を天井に向けて放射し、その部屋全体を冷却する方法です。この方法により、ガスの点火温度を下げ、火災の中心に到達する時間を稼ぐことができます。

具体例と技術

例えば、屋外からのハードヒットという手法は、火災が窓や開口部から吹き出している場合に、その部屋を直線的な水流で冷却する方法です。この手法により、内部からの攻撃を容易にし、フラッシュオーバーを遅らせることができます。

現場に到着したら、煙の低圧・高圧の識別を行う

現場に到着すると、まず煙の低圧・高圧を識別することが重要です。煙の出方により、建物内部の状況を推測することができます。低圧の煙が流れ出ている場合、それは内部が比較的涼しいことを示し、迅速に進入しても安全です。しかし、高圧・高速度・高熱の煙が出ている場合、内部は非常に危険な状態であるため、慎重な行動が求められます。

たとえば、煙が亀裂や開口部から出ているかどうかも確認しましょう。亀裂から煙が出ている場合は、火災が建物の内部で拡大している可能性があります。煙の色や濃度も重要な指標となります。黒くて濃い煙は、燃焼物質が豊富で高温であることを示し、白くて薄い煙は、水蒸気が多く比較的低温であることを示します。このように、現場での煙の観察は、進入時のリスク評価に不可欠です。

フラッシュオーバーの識別:圧力と速度が重要

フラッシュオーバーの識別において、圧力と速度が重要な要素となります。「沸騰した鍋」というイメージを使うとわかりやすく、煙が沸騰しているように見える場合、フラッシュオーバーが4~5秒以内に発生することを示しています。この状態では非常に危険で、迅速な対応が必要です。

例えば、部屋の中央の煙がゆっくりしていて、壁際の煙の速度が速い場合、ガスを冷却する時間があります。この冷却作業により、フラッシュオーバーを防ぐことが可能です。したがって、煙の動きや温度を細かく観察し、適切な対応を行うことが重要です。

フラッシュオーバーの兆候と症状

フラッシュオーバーには兆候と症状があり、それぞれを正確に識別することが重要です。兆候とは、視覚的に確認できるものです。例えば、高温がどこで感じられるかや、肩や手の甲、耳などで熱を感じる場合はフラッシュオーバーの兆候です。視界がゼロになることもありますが、必ずしもそうとは限りません。時には視界が良好でも、頭上には超加熱ガスが存在することがあります。

一方、症状とは実際に起こっていることで、見えないものです。例えば、構造物内の換気が不十分であれば、熱とエネルギーが蓄積し続け、発火温度に達するとほぼ一斉に炎が発生します。このような状況では、迅速な判断と行動が求められます。

火災成長段階の観察と対応

火災が成長段階に入ると、周囲の壁でガスの放出が急速に進行します。これは、外壁や天井が熱を吸収しやすいためです。部屋の中央よりも早く熱を吸収し、洞窟のような効果が生まれます。煙が左右と中央で異なる動きを見せることもあります。

成長段階に入ると、煙の速度が増し、周囲の壁と煙柱の中心部の違いが明確になります。このように、火災の成長段階を観察し、適切な対応を行うことが消防士の重要な役割です。

消防士が理解するポイント

重要なポイントは以下の通りです。

  1. ロールオーバーとフラッシュオーバーの理解:
    • ロールオーバーは、煙の中に指や蛇のような炎が見える状態を指し、酸素と燃料が適切に混ざりガスが点火する現象です。これが起こると、すぐ後にフラッシュオーバーが発生する可能性があります。
    • フラッシュオーバーが発生すると、部屋全体が火に包まれ、温度が数秒で500度から1200度に急上昇します。
  2. 訓練の重要性:
    • 新世代の消防士には、できるだけ多くの実火災経験を積むことが重要です。火災スプリンクラーや火災予防策のおかげで実際の火災出動が減少しており、実践的な経験を積む機会が少なくなっています。
    • 実火災の各段階を目撃し、ノズルを使用する訓練が必要です。
  3. 防護具の進化とリスク:
    • 現代の防護具は非常に優れており、消防士が安全だと感じるため、火災の奥深くまで進入する傾向があります。しかし、これによりフラッシュオーバーに巻き込まれるリスクが増加しています。
  4. 訓練の具体的な効果:
    • 適切な訓練と教養を受けることで、危険な状況を認識し、迅速に退避する判断ができるようになります。ある訓練では、消防士が訓練のおかげで危険を認識し、フラッシュオーバーから無事に退避できました。
  5. 目標:
    • フラッシュオーバーに至る前兆を識別し、ガスを点火温度以下に冷却するノズル技術を提供し、フラッシュオーバーを遅らせて脱出時間を稼ぐこと。
    • 最終的な目標は、フラッシュオーバーによる怪我や死亡から消防士を守ることです。

参考文献

ニールセン, クレイグ. 「フラッシュオーバー生存訓練における経験」. 31年間の消防署勤務を通じて、グレッグ・パスコラと共にライブ火災挙動訓練を13年間実施。フラッシュオーバーの結果としての友人の死を受け、フラッシュオーバー生存訓練を導入し、ドラガーシステムを用いて3500人の消防士に訓練を提供。多くの重傷や死亡を防ぐことができた経験に基づく報告書。

コメント

タイトルとURLをコピーしました