現場指揮官・中隊長が知っておくべき実践的活用法
消防活動において、360°サイズアップは初動の成否を左右する極めて重要な行動です。
近年、サーマルイメージングカメラ(TIC)は建物内部だけでなく、外部からのサイズアップにも有効であることが注目されています。
本記事では、外部からTICを活用した戦術的360°サイズアップについて、現場実務に直結する形で詳しく解説します。
まず大前提:TICより先に「自分の目」
最初に強調しておきたいのは、カメラを見る前に「消防士として見る」ということです。
サイズアップでは、
まず自分の目で建物全体を確認します。
建物構造、用途、増改築の有無、煙の色や量、流動、開口部の状況を把握します。
そのうえでTICを使用し、目で得た情報を「確認」する、あるいは「否定」するために使います。
TICは判断を補助する道具であり、判断そのものを代替するものではありません。

外部TICで重要となるサーマルブリッジ
外部サイズアップでTICが有効な理由は、サーマルブリッジを視覚的に捉えられる点にあります。
サーマルブリッジとは、建物内部の熱が外部へ逃げるポイントのことです。
代表的な例として、
ドアや窓枠の隙間
軒天換気口や棟換気口
配管・ダクトの貫通部
外壁の劣化や隙間
が挙げられます。
これらは内部の高温・高圧な空気が外部へ放出される場所であり、火災の位置や進展方向を推定する重要な手がかりとなります。

スキャンは必ず「低い位置から高い位置へ」
外部TIC運用で最も重要なポイントが、低い位置から高い位置へスキャンすることです。
多くの消防士は、上階から出ている煙や炎に目を奪われがちです。
しかし、火災の本体が地階や1階にあるケースは決して少なくありません。
1階火災や半地下火災の上で活動してしまい、床抜けや急激な火災進展に巻き込まれる事故は、世界中で発生しています。
その多くが「下を見ていなかった」ことが原因です。
低→高のスキャンを徹底することで、こうした致命的なリスクを大きく減らすことができます。
モード切替で得られる情報量は大きく変わる
多くのTICには、調査・サーベイ系のモードが搭載されています。
通常モードでは分かりにくい熱も、
温度差が強調され
煙の背後にある熱量が可視化され
より正確な状況判断が可能になります。
これにより、煙の量だけで判断するのではなく、「見えない火」の存在を察知できるようになります。

煙や炎が出ていない面ほど慎重に見る
360°サイズアップでは、煙や炎が出ていない面を軽視しがちです。
しかしTICを使うことで、
外観上は静かでも1階部分に強い熱反応がある
煙は出ていないが内部温度が高い
といった危険な状況を把握できます。
これは、火災の上に乗ってしまう活動を未然に防ぐうえで非常に重要です。
スポット温度を過信しない
TIC画面に表示されるスポット温度は、
測定距離
建材の放射率
反射や観測角度
の影響を大きく受けます。
状況によっては、数百度単位で誤差が生じることもあります。
そのため、
数値だけを見ない
画面全体の色分布を見る
相対的な温度差で判断する
ことが基本となります。
外部TICサイズアップがIAPを進化させる
外部から得られるTIC情報は、
火災位置の推定
延焼方向の予測
進入ルートの選定
隊員配置の最適化
に直結します。
これらを統合することで、インシデント・アクション・プラン(IAP)の精度は大きく向上します。
結果として、隊員の安全性が高まり、無駄なリスクを減らし、消防活動の成功率を高めることにつながります。
まとめ:TICは外部サイズアップの戦術的武器
外部360°サイズアップでは、
まず目で建物を見る
TICは低→高で使用する
サーマルブリッジを意識する
スポット温度に惑わされない
得られた情報をIAPに反映する
この考え方が重要です。
サーマルイメージングカメラは、建物内部だけの装備ではありません。
正しく使えば、外部サイズアップにおける極めて強力な戦術的ツールになります。
日常訓練の段階から、外部TIC運用を意識することが、現場での安全と成功につながります。









コメント