「物理学」は、対象となる物質について「この物質は一体どんなものであるか」ということを徹底的に突き詰めて研究する学問です。多くの知識を蓄積する必要もありますが、物質の特性を自分の目で確かめられる「実験」も大変重要視されています。物質の本質を知ることで、さまざまな現象の原因や原理を知ることもできます。
ここでは、物理学の中でも最も基本的な力学、運動等を記載します。
これらの基本を理解したうえで、ロープレスキューや器具の取り扱いをしてください。
力とは
力とは、物体の位置や形状に変化を加えるものです。
力学で使われる力には、重力、張力、摩擦力などがあり、視覚的にわかりやすくするために、「矢印」 が用いられます。
そして、この矢印によって、”どの点に”、”どのくらいの大きさで”、”どの方向に” 力が働いているのかが理解できます。矢印は「ベクトル」ともいいます。
力は、矢印の長さや向きによって、次のように表現されます。

・力の大きさ ・・・ 矢印の長さ
・力の向き ・・・ 矢印の向き
・作用点 ・・・ 矢印の始点
これらを力の三要素といいます。

力ってのはな、物を動かしたり形を変えたりするもんじゃ。重力とか摩擦力とかがあって、矢印で「どこに」「どれくらい」「どっち向き」に働いてるかを表すんじゃよ。この矢印、ベクトルって呼ばれるんじゃ。
矢印には意味があってな、長さが力の大きさ、向きが力の方向、始まりの点が力の作用点なんじゃ。この3つを「力の三要素」って言うんじゃよ。
合力と分力
力は合成したり、分解することができます。
図に示すように 力Fは、F1とF2に分解することができます。

このとき、
F は F1 と F2 の「合力」ごうりょく
F1 と F2 は F の「分力」ぶんりょく
といいます。
例えば、これを具体例で示すと、次の図のように
荷物を Fの力で一人で引っ張ることと、F より小さな力で二人で引っ張ることは同じ働きをすることになります。

また、合力は引っ張る角度によって大きさが異なります。角度が大きくなればなるほど合力は小さくなります。

2つの力が一直線上にあり、同じ向きの場合、合力 F = F1 + F2
反対向きの場合、 合力 F = F2 – F1 となります。

「合力」は英語で「フォース(force)」といいます。

力は分けたり合わせたりできるんじゃ。一つの力を「分力」に分けることもできるし、複数の力を合わせて「合力」にすることもできるんじゃ。例えば、荷物を一人で引く力と、二人で分担して引く力が同じ働きをするって話じゃな。
注意するのは、引っ張る角度じゃ。角度が広がると合力が小さくなるんじゃよ。それと、一直線上で同じ方向に力が働く場合は足し算、反対向きなら引き算になるんじゃ。こんな感じで力の話は面白いもんじゃな!
力の大きさ
ニュートン(N)は力の大きさを表す単位です。「kgやgじゃないの?」と思うかもしれませんが、kgやgは質量の単位です。ニュートンの単位は、質量に重力加速度をかけたものです。1.0kg×9.8m/s2=9.8Nで定義されます(1.0は質量、9.8は重力加速度)
他にも、「地球の重力の6分の1である月面上では何ニュートン?」という質問も出されやすいのですが、月面上ではニュートン(N)は地球上の6分の1になります。
ニュートン(N)は地球外で変化しますが、質量であるグラムはどこへ行っても変わりません
メカニカルアドバンテージ
メカニカルアドバンテージは、滑車の効果に基づくものです。メカニカルアドバンテージを使用した倍力システムは、荷重を引き上げるのに必要な力を減らすことができます。
滑車の効果
ロープに荷重が吊り下がり、その上方に設置された定滑車を通った反対側のロープを人が保持している状況を考えた場合、片方のロープにかかる荷重の全ては、定滑車を挟んだ反対側のロープに伝わります。
荷重が 50kg の場合、人は 50kg 相当の力で自分側のロープを保持する必要があります。それぞれの側のロープに 50kg 相当の力がかかるため、定滑車が支えるのは 100kg となります。

動滑車では、動滑車にかかっている左右のひもでおもりを支えることになります。天井につながっているひもが、おもりにはたらいている重力の半分を支えているため、手がひもを引く力は半分になります。
そして、手が引くほうのひもを、天井に固定されたひもの分をふくめて持ち上げる必要があるため、引く距離はおもりの2倍となります。

備考: この理論は、実際には存在しない効率 100% の滑車でのみ成り立ちます。実際は、滑車の効率は 50% から 98% です。計算を簡単にするために、ここでは効率 100% の滑車を前提に説明します。
角度による荷重の変化

分力による支持点への荷重状況 合力による支点への荷重状況
A 角度(°) | B 荷重(%) | 角度(°) | 荷重(%) |
0 | 50.0 | 0 | 200 |
30 | 51.8 | 30 | 193 |
60 | 57.7 | 60 | 173 |
90 | 70.7 | 90 | 141 |
120 | 100.0 | 120 | 100 |
以上の表からも分かるとおり、救助活動の中で、支点を用いる場合は合力や分力を考慮した活動が必要になります。
大きな角度は必要以上の荷重がかかるため、支点は90度以内になるよう設定しましょう。



このチャートは、ロープ間の角度が増加するにつれて力がどのように劇的に増加するかを示しています。
便利な分度器
親指を大きく広げると、親指と人差し指の角度は約90度(一般的に最大角度と見なされます)です。すべての指を大きく広げると、親指と小指の角度は約120度(「限界角」)になります。

メカニカルアドバンテージっちゅうのは、滑車を使って重いものを軽い力で持ち上げる仕組みじゃ。動滑車なら半分の力で持ち上げられるが、その分ロープを倍引く必要があるんじゃ。
ロープの角度も重要で、広げすぎると支点に余計な力がかかる。90度以内が理想で、親指と人差し指を広げたくらいがちょうどいい。救助では、この仕組みをしっかり考えるんじゃよ。

摩擦
摩擦は、2つの物体が接触して動くときに生じる抵抗力です。たとえば、救助活動の際、摩擦を利用してブレーキバーラックを使い、物や人をゆっくりと下ろします。これにより、懸垂下降中に安全に制御を保つことができます。さらに、手袋をはめた手でロープの滑る速度を調整する際にも摩擦が重要な役割を果たします。このような場合、摩擦は非常に役立つものです。
一方で、摩擦は時に邪魔になることもあります。たとえば、重い物を持ち上げようとする際、摩擦がエネルギーを吸収してしまい、余分な力が必要になります。ロープがカラビナや滑車を通過する際、岩や建物の端でロープが引っ張られると、摩擦が生じて動きを妨げます。特に、ロープが建物の端で90度に曲がるような状況では、通常の2倍の力が必要になることがあります。こうした場合、摩擦は障害となります。
また、摩擦がエネルギーを吸収する際、そのエネルギーは失われるわけではなく、熱に変わります。この熱は、最初に摩擦を生じた物体に吸収され、その後空気中に放散されます。摩擦が発生する物体が小さいほど、その物体は高温になります。たとえば、小さなチューブスタイルの降下制御装置は、表面積が小さいため、同じ摩擦が生じても大きなブレーキバーラックよりも熱くなりやすいです。
このように、摩擦は時に助けとなり、時に障害となるため、その特性を理解し適切に扱うことが重要です。
摩擦の役割
- 2つの物体が接触して動くときに生じる抵抗力
- 救助活動では、摩擦を利用してブレーキバーラックを使い、安全に物や人をゆっくりと下ろす
- 手袋をはめた手でロープの滑る速度を調整する際にも摩擦が重要
摩擦のデメリット
- 重い物を持ち上げる際、摩擦がエネルギーを吸収し、余分な力が必要になる
- ロープがカラビナや滑車を通過する際、摩擦が動きを妨げる
- 特にロープが建物の端で90度に曲がる場合、通常の2倍の力が必要になる
摩擦による熱の発生
- 摩擦がエネルギーを吸収すると、それは熱に変わる
- 熱は最初に摩擦を生じた物体に吸収され、その後空気中に放散される
- 摩擦が発生する物体が小さいほど、その物体は高温になりやすい
- 例:小さなチューブスタイルの降下制御装置は、大きなブレーキバーラックよりも熱くなりやすい
典型的な摩擦率 | |
---|---|
ブレーキバーラック | 75% – 98% |
カラビナ(180°曲げ) | 40% – 60% |
DCD | 90% – 95% |
プーリー(ボールベアリング) | 5% |
プーリー(ブロンズブッシング) | 30% |
レスキュー 8 DCD | 80% – 95% |

摩擦っちゅうのは、物が触れて動くときの抵抗じゃ。救助ではブレーキバーラックで人や物を安全に下ろしたり、手袋でロープの速さを調整するのに役立つんじゃ。
でも、重い物を動かすときやロープがカラビナや建物の端を通ると、余計な力が必要になったり、熱が出たりすることもあるんじゃ。小さい道具ほど熱くなりやすいから注意がいる。便利でも厄介な面もある、それが摩擦じゃよ。
倍力システム
倍力システムとは、重たいものをできるだけ少ない力で動かしたり、上げたりするための、ロープとプーリー(動滑車・定滑車)の組み合わせ方です。
1:1 システム
1:1 システムは、上げる質量と同じだけ、同じ量の力で引っ張らなければなりません。また、ロープが滑車を通ったり、起伏の多い地形を横切ったりする場合は、摩擦のためにさらに引っ張る必要があります。
1:1システムが最良な選択である場合があります。これは、負荷がそれほど重くない場合(たとえば、救助者または被害者が引っ張られている間の斜面が低角度など)、または救助隊員がたくさんおり、十分に引っ張る力がある場合があります。


2:1 システム
2:1 システムは、荷重の重量の約半分の力で引っ張ります。しかし、引っ張る距離は2倍になります。
2:1 システムの主な利点は、ロープ 1 本とプーリー 1 台しか必要としないシンプルさです。

3:1 システム
3:1は、救助現場で使用頻度が高いシステムです。これは、少ない資器材で作成するのができ、比較的簡単にシステムを組めます。垂直の引き上げでは1人か2人が限界です。
3対1のシステムは、その形状から「Zリグ」と呼ばれます。

4:1 システム
4:1システムは、ダブルプーリーを2つ使用し作成します。
主に垂直の引き上げで使用します。4倍の力になるため救助者1人での引き上げが可能です。

5:1 システム
3:1に形が似ており、救助現場で使用頻度が高いシステムです。
5倍の力になるため、垂直の引き上げでは3人引き上げることが可能です。

救助現場での倍力作成は3・4・5倍システムのみの使用がほとんどです
3・4・5倍システム作成を覚えましょう
倍力システムは、滑車とロープで重いものを少ない力で動かす工夫じゃ。1:1は力そのまま、2:1は半分の力で引けるけど距離は倍。3:1は「Zリグ」と呼ばれ、救助でよく使う便利な方法じゃ。4:1は1人で重いものを上げられ、5:1はさらに力強く3人分の重さも引き上げられる。救助では3:1、4:1、5:1を覚えとくと安心じゃな!

倍力システム作成動画
3:1 システム👇
4:1 システム👇
5:1 システム👇
倍力システムにおける効率ロスの詳細分析
- 摩擦係数と効率ロス
ロープが滑車やカラビナを通過する際、効率は理想値より低下します。摩擦係数が与える影響を具体的に理解しておくことが重要です。- カラビナでの摩擦
カラビナの直径が小さい場合、ロープの曲げ半径が小さくなり、効率が著しく低下します。曲げ半径を1cmとした場合の効率は約50~60%。直径が大きいカラビナを選ぶことで効率を向上できます。 - 滑車のベアリングの違い
- ボールベアリング: 摩擦が少なく効率が高い(90~98%)。
- ブロンズブッシング: シンプルだが効率が低め(70~85%)。
- カラビナでの摩擦
- 「エッジ効果」
ロープが岩や建物のエッジを通過する場合、角度が鋭くなるほどエネルギーロスが増加します。- 90度の曲げ: 通常のロープ摩擦効率を約50%に低下させる。
- 保護パッドの活用: エッジ保護器具やローラーを用いることで効率を向上(90%前後まで改善可能)。
倍力システムの設計時に考慮すべき特殊条件
- 動的荷重の影響
荷重が動的に変化する場合(たとえば、落下時や突然の停止時)、瞬間的にシステムに高い応力がかかることがあります。- 衝撃荷重計算
動的な衝撃力 F = m × g × 落下率
(F = 衝撃荷重、m = 質量、g = 重力加速度、落下率 = Fall Factor) を事前に計算し、システムが耐えられる設計にする。- 落下率が1を超える場合: 高強度のロープや吸収装置を追加。
- 衝撃荷重計算
- 摩擦熱の計算
長時間の引き上げや下降作業では、摩擦熱が蓄積し機器にダメージを与える可能性があります。- 熱生成量の計算
熱量 Q = f × d × W(摩擦係数 × 距離 × 荷重)で計算。 - 実践例: ブレーキバーラックを使用する場合、下降距離50mで50kgの荷重を下ろすと、摩擦熱は金属表面温度を70~90℃に上昇させる可能性がある。
- 熱生成量の計算
高度な倍力システムの応用
6:1 システム
- 設計と用途
垂直方向で極めて重い荷重を扱う際に使用。3:1システムをさらに倍にして組み立てる。- 具体例: 長距離での土砂引き上げや、重量級車両の移動。
- 注意点
摩擦効率が低い場合、6:1であっても4:1程度の効果しか得られないことがある。
タイロープ(Tyrolean Traverse)の倍力設計
- ロープを水平に張り、対岸まで人員や資材を輸送するシステム。
- ポイント
- ロープの伸びを最小限にするため、低伸縮性ロープ(スタティックロープ)を使用。
- 張力は荷重の総重量と角度によって指数関数的に増加するため、角度を150度以下に設定する。
実践的なシステム組み立て技術
- 「Zリグ」の効率向上テクニック
- プーリー位置を適切に調整し、摩擦を最小限に抑える。
- 荷重を分散させるため、プーリーを2つ使用し、主ロープと引きロープの張力を均一化する。
- 「スイフトウォーター環境」での特殊な倍力システム
- 水流による抵抗を考慮し、通常よりも効率の高い滑車を利用。
- 水流を利用して荷重を減らす「フローティングテクニック」を併用。
倍力システムを用いた救助活動でのリスク管理
- システムの信頼性テスト
- 負荷を徐々に増やし、各部位(滑車、カラビナ、ロープ)の耐久性を確認。
- システム全体のバックアップラインを常に設置。
- 心理的要因の影響
- 救助者が疲労やストレスで判断を誤る場合を想定し、複雑なシステムを避ける。
- 操作マニュアルを事前に明確化し、簡単な手順書を携行。
実験的な倍力システムの進化
- ロープ素材の進化と適用例
- 新素材(DyneemaやTechnora)を用いたロープは軽量かつ高強度で、従来のシステム効率を向上可能。
- 欠点: 摩擦熱に弱い場合があり、使用時は熱の発生箇所をモニタリング。
- デジタル負荷モニター
- 各支点やプーリーに負荷センサーを取り付け、リアルタイムでシステム全体の荷重を把握。
- 過剰荷重の予兆を即時に検出し、安全性を向上。
これらの情報は、特に高度な救助技術や特殊な現場での応用を考慮した内容です。訓練時や現場作業で活用する際は、必ず事前のテストと安全管理を徹底してください。
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