交通救助とは、交通事故現場で要救助者を「安全・確実・迅速」に救出するための活動です。救助隊と消火隊が連携し、2次災害を防ぎつつ負傷者の命を守るための重要な任務を遂行します。
全国の交通事故で毎年約3000名の方の命が失われています。
事故現場では、車は大破し救出が困難なことが多くあります。
消防士はそういった事故現場で悲惨で目を疑うような光景を何度も見ることになります。ですが中には大けがをしながら助けを求める人たちが大勢います。
要救助者の人生をつなぐ安全・確実・迅速な交通救助活動のすべて全国のどこでも起こりうる交通事故から、要救助者をどう救出するのか?人を「安全・確実・迅速」に救出するための交通救助のテクニックを記載します。
交通救助(車両)
車両の事故により、車内で身動き取れない要救助者の基本的な交通救助法です。
救助隊と消火隊がセットで出動するので、2隊の一連の流れと活動内容を記載します。
あくまで見本ですので、各隊の詳細な活動内容は調整してください。

【救助隊 交通救助 活動内容】
- 周囲の安全確認後、パイロン等を使用し警戒区域作成
事故の際、第一に考えるのは二次災害防止です。パイロンや発煙筒を使用し、後続車からの衝突等を避けるように努めます。

- 事故車両の確認 ※事故車両何台でオイル漏れ等ないか
エンジンオイルやガソリンは発火の可能性があります。漏洩を確認した際は早急に処理するようにしましょう。事故車両のサイズアップをする。

- 車両安定 輪留め ステップチョーク
車両を安定化させ確実に動かないようにしましょう。車両の重量や道路の傾斜によっては、タイヤの空気を抜くことも考慮する。


参考ページ:ここでは、部位ごとに部品の名称を紹介します。救助活動を行う際には、名称を把握しておくと活動がスムーズになり情報を正確に把握できます。救助隊は知っておきたい車両の名称を記載します。
- バッテリー端子取り外し
衝撃で配線が断線(損傷)しているおそれがあります、バッテリーをはずしてショートさせるのを防ぎましょう。 バッテリーはマイナスから外す
※欧州製大型車には電動で運転席の座席高さをコントロールするタイプがあり,端子を外すと座席が下がることがあるので注意が必要
- 負傷した乗員(要救助者)の確認 ※要救助者何人いて傷病程度は
要救助者の人数や傷病程度で救出方法や優先度が変わります。

- ドア開放扉の確認
ドアの変形や内側ロックにより開かないことがあります。
ガラスを割ったり油圧器具により解放しなくてはならない場合もあります。
参考ページ:交通事故の際、ドアの施錠や変形によってドアが開かないことがあります。そういった場合、救助隊は要救助者への接触や救出のために破壊活動をしなければなりません。ここでは車両破壊活動について記載します。

- エンジン停止
エンジンを確実に停止し二次災害を防止する。
従来のキータイプではなく最近の車はプッシュスタートが増えてます。プッシュスタートとは、エンジンをかける際にキーを回すのではなく、ボタンを押してエンジンの発停をするものです。

- 駐車ブレーキ(サイドブレーキ)確認
エンジンと同じく駐車ブレーキを確実に停止し二次災害を防止する。
レバー式サイドブレーキや足ふみ式サイドブレーキがあり、最近は電動パーキングブレーキというのもあります。電動パーキングブレーキは、ヨーロッパメーカーのラグジュアリーな輸入車や国産の高級車で採用されている方式です。

- エアバック保護
エアーバッグ保護カバーは、救助作業に先立ってハンドルにかぶせて取付けることで、運転席の要救助者をエアバック膨張から守り、二次災害を防ぎます。
要救助者アプローチ 頸椎保護 ネックカラー装着 ※必要であれば酸素投与・防寒等
身体(特に首)は交通事故などによって、強い衝撃を受けます。身体が後方に反り返り、その反動によって反り返った身体が前方に強く曲がります。外力が取り除かれたとしても頭部の重量を支えるだけでも損傷を悪化させることが起こりうる。そこでネックカラーを頸部の周囲に巻くことにより、頭部の重量を分散させることができ、頸部の損傷の悪化を防ぐ効果がある。

- 救出方法を確認し救出作業実施
再度サイズアップする。
要救助者の体形や車両の形態によって救出方法が変わります。
- 全脊柱固定実施
人体に高エネルギーが加わった場合は脊髄損傷の可能性が常につきまといます。意識障害も加わっていると、搬送中に知らず知らずのうちに脊髄損傷などを悪化させてしまうことがあります。

参考ページ:SCI(脊髄損傷)の最も多い原因は自動車事故で、これは症例の40%強を占めます。ここではスパインボード(バックボード)による全身固定方法を記載します
参考ページ:車両事故において、傷病者の安全な救出を行うためには正確な手順と適切な器材が必要です。ここでは、バックボードを使った救出プロセスを詳細に解説します
- 「輸液の準備」「酸素投与」「呼吸管理」「止血」「骨折の固定」などの必要な救急処置を行う
- 救急車内収容
交通救助での最優先事項は警戒区域の作成と、車両の安定化!
2次災害を防止しよう

交通救助ではまず警戒区域を作り、車両を安定させることが最優先!二次災害を防ぎながら救助活動を安全に進めよう。
【消火隊 交通救助 活動内容】
- 周囲の安全確認後パイロン等を使用し警戒区域作成
救助隊がサイズアップをしていたら消火隊が優先的に警戒区域を作成する

- 警戒筒先設定・消火器設置
火災危険のある救助現場では、ホースを充水させておき有事の際、早急に放水できるようにしておく。
参考ページ:車両火災は、有毒な煙を発生させ、部品を飛散させ、1,500℃以上の熱を発生させることができます。ここでは詳細を記載します。

- 事故車両の確認 ※事故車両何台でオイル漏れ等ないか
救助隊と協同しサイズアップを行う

- 負傷した乗員(要救助者)の確認 ※要救助者何人いて傷病程度は

- バッテリー端子取り外し
救助隊がサイズアップや要救助者を観察していれば消火隊が優先的にバッテリー取り外しを行う。
- オイル漏れ等の処理
ガソリン等が多量に流出しており、火災危険があれば処理は必須

- 救助隊補助
※搬送時プライバシーシート使用

これらの2隊の動きが交通救助の際の基本動作となります。

消火隊は警戒区域を作り、ホースを充水してすぐに放水できる準備を!救助隊と協力し、バッテリー取り外しやオイル漏れ処理も優先して進めよう。
バッテリーの外し方
ボンネットの開け方
運転席の周囲に、車のボンネットが開いたイラストの付いたレバーがあります。これがボンネットオープナーです。
ボンネットオープナーを引くと、ボンネットが“ボン”と浮き上がります。中にバッテリーがあります。

「-ターミナル」から取り外す
樹脂カバーがかぶせられている端子が「+ターミナル」で、剥き出しになっている側が「-ターミナル」。バッテリーターミナルを外すときは、その剥き出しになっている「-ターミナル」から取り外す。また、固定ナットは手で回せる程度まで緩めるだけでよく、固着して外れないときは左右にこじるようにすれば引き抜くことができます。
ナットのサイズは10mmが主流ですが。外車では12mmゃ8mmもあります。
端子に接触しないよう絶縁する
取り外した「-ターミナル」は、作業中に-端子に接触しないよう、バッテリーケースの側面の方に追いやり、ビニールテープ等で絶縁する。

車のバッテリーは何でマイナス端子を外すのか?
車のバッテリーの交換をするときをはじめ、電装品を取り付けるときにもバッテリーのマイナスから外します。マイナス端子を外すことにより、バッテリーから電気が通るのを遮断し、誤って触ってしまっても感電などが起きないようにするためです。また、作業中にショートを起こさないという目的もあります。
ショートとは、プラスとマイナスを直接つないでしまうことです。間に電装品があれば、ショートを起こすということはありません。しかし、作業中に誤ってレンチがプラスとマイナス両方に触れてしまったとすると、ショートを起こしてしまいます。
ショートが起きると火花が飛んだり、ショート状態が続いたら発火して火事がおこったりすることもあります。また、そこまでならなくてもヒューズに大きな電流が流れたことにより、「ヒューズが飛ぶ」という状態になってしまいます。
ショートは火災やケガの原因となり、大変危険です。バッテリーを取り外す際には、バッテリーのマイナス端子を外すようにしましょう。

バッテリーは「-ターミナル」から外し、外した端子は絶縁してショートを防ごう。誤接触や火花、感電リスクが減り安全に作業が進められるよ!
車両安定化の重要性
事故現場で車両の安定化は最重要事項です。
車輪の付いている物体は動きます。車両が動き、現場の環境が変化することで隊員と傷病者のリスクが増えます。
道の傾斜は?エンジンは切ってある?サイドブレーキは?
いくつかの条件で、車両は突然動き出します。
車両の安定化は、ステップチョーク、クリブ、車輪止め等を使用します。

クリブやステップチョークは、ピラー下に設置するようにしてください。最も安定します。
車両の移動の可能性が低くならない場合、タイヤをパンクさせるのも1つの提案です。

事故現場で車両が動かないように、ステップチョークやクリブ、車輪止めを使って安定化しよう。必要ならタイヤをパンクさせてさらに安全確保を!
参考ページ:車両安定化の基本の知識をわかりやすく解説します。
交通救助のチェックリスト
以下に、チェックリストを□付きで表形式にまとめました。
項目 | 救助隊 | 消火隊 |
---|---|---|
周囲の安全確認 | □ パイロン等を使用し警戒区域作成 | □ パイロン等を使用し警戒区域作成 |
事故車両の確認 | □ 車両の台数確認、オイル漏れ・ガソリン漏れ等の確認 | □ 救助隊と協同しサイズアップ実施 |
車両の安定化 | □ 輪留め設置、ステップチョーク使用、タイヤの空気抜き | – |
バッテリー端子の取り外し | □ マイナス端子から取り外し、欧州製大型車の座席高さに注意 | □ 救助隊の状況に応じて取り外し実施 |
負傷者の確認 | □ 要救助者の人数確認、傷病程度の確認 | □ 要救助者の人数と傷病程度の確認 |
ドア開放の確認 | □ ドアの開放可能性の確認、ガラス破砕・油圧器具の使用 | – |
エンジン停止 | □ プッシュスタート車両のエンジン停止確認 | – |
駐車ブレーキの確認 | □ サイドブレーキの種類確認と確実な停止、電動パーキングブレーキの確認 | – |
エアバッグ保護 | □ エアバッグ保護カバーの装着 | – |
要救助者へのアプローチ | □ 頸椎保護(ネックカラー装着)、酸素投与・防寒処置 | – |
救出方法の確認と実施 | □ 救出方法の再確認と実施、全脊柱固定 | – |
救急処置 | □ 輸液、酸素投与、呼吸管理、止血、骨折固定 | – |
救急車内への収容 | □ 救急車内への収容 | – |
警戒筒先設定・消火器設置 | – | □ ホース充水と即時放水準備 |
オイル漏れ等の処理 | – | □ ガソリン等の処理 |
救助隊の補助 | – | □ プライバシーシートの使用 |
二次災害防止 | □ 警戒区域の作成と車両の安定化 | □ 警戒区域の作成と車両の安定化を支援 |
この表を利用して、実際の救助活動中に各項目をチェックしながら進めることができます。状況に応じて必要な項目をチェックし、作業の進行状況を確認してください。
高度な車両安定化技術

車両の安定化は、救助活動中の安全性を確保するために非常に重要です。基本的な安定化技術に加え、特に事故車両が傾斜地や悪天候である場合には、より高度な安定化技術が必要です。
- 高負荷クレーンの使用:大型車両や複数台の車両が関わる事故の場合、クレーンを使って車両を持ち上げ、救助者がより簡単に作業できるようにします。
- 専用スタビライザーの使用:道路の傾斜が急であったり、車両が横転している場合、専用のスタビライザーを使用して車両を固定します。スタビライザーは、車両の重心を固定し、さらに安全な作業環境を提供します。
医療支援との連携
現場での救助活動中に、救急隊との密接な連携が求められます。特に重傷者に対しては、以下の対応が必要です。
- 救急処置のサポート:救助隊は、救急隊の指示のもと、酸素投与や輸液の準備、さらに呼吸管理や止血などの救急処置をサポートすることが求められます。
- 脊柱損傷のリスク管理:交通事故では脊柱損傷のリスクが高く、救出時にバックボード(スパインボード)やネックカラーを適切に使用して全脊柱固定を行うことが重要です。
現場での状況判断とリーダーシップ
交通救助は、迅速かつ正確な状況判断が求められます。現場指揮官やリーダーは、次のような重要な決断を下さなければなりません。
- 優先順位の決定:要救助者の数や傷病程度に応じて、救助の優先順位を決定します。これにより、最も命に危険がある者に対して優先的に対応できます。
- 二次災害のリスク管理:救助活動中に、事故現場での追加のリスク(例えば、車両の二次的な動きや火災の発生)を常に監視し、必要な対策を講じます。
「ハイテンションスティール(超高強度鋼)車両の救助」
近年、多くの車両に使用されているハイテンションスティール(HSS)は、通常の油圧救助機器では切断が難しいことがあります。このため、HSS車両に対しては特殊な救助器具や技術が求められます。
- HSS対応カッターの使用:従来の油圧カッターでは、ハイテンションスティールの切断に苦労するため、HSS対応のカッターやブレードが必要です。これらのカッターは高い圧力と強力な刃を持ち、特殊鋼を効率よく切断できます。
- 切断ポイントの選定:HSSの車両では、全体のフレームが硬化しているため、切断箇所を慎重に選ばなければなりません。例えば、ピラーの角部分ではなく、中央部に力が集中しやすい部分を切断することで、より効果的に救出作業を行えます。
- レーザー切断の導入:一部の先進的な消防隊では、極端に硬いHSSフレームやチタンを含む構造を切断するためにレーザー切断装置を導入しています。この技術は、時間を短縮し、作業の安全性を高める可能性がありますが、操作には高度なトレーニングが必要です。
エアバッグのデプロイメントリスク管理
事故現場では、未展開のエアバッグが二次災害を引き起こすリスクがあります。特に、救助中にエアバッグが突然展開すると、救助者および要救助者が大きな怪我を負う可能性があるため、その処理には細心の注意が必要です。
- 展開していないエアバッグの処理:エアバッグが未展開の状態である場合、エアバッグ展開防止装置(エアバッグインヒビター)を使用します。これにより、誤作動による展開を防ぎます。
- 爆発ボルトの管理:エアバッグの展開に使用されるガス発生器には、爆発ボルトが使用されており、この爆発ボルトが高熱や衝撃によって意図せず作動するリスクがあります。事故車両でバッテリー端子を外す際は、ガス発生器の位置や状態を確認し、慎重に作業する必要があります。
「事故後のリチウムイオンバッテリーの発火リスク」
ハイブリッド車や電動車両に搭載されているリチウムイオンバッテリーは、事故後に発火するリスクがあります。このため、リチウムイオンバッテリーの処理には特殊な知識が必要です。
- サーマルランアウェイ現象:リチウムイオンバッテリーが損傷した場合、サーマルランアウェイという現象が起こり、バッテリーが自己加熱して発火や爆発の原因となる可能性があります。この現象を防ぐためには、バッテリーを迅速に冷却し、過熱を防ぐことが重要です。冷却水を直接バッテリーに噴霧するか、専用の冷却システムを使うことが有効です。
- 損傷したバッテリーの除去:事故車両からリチウムイオンバッテリーを除去する際には、電気ショックや発火のリスクを避けるため、絶縁工具と保護装備を使用し、慎重に作業を進めます。バッテリーを完全に除去した後も、数時間にわたって監視が必要です。

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