マンホール救助(立て坑)

低所救助

閉鎖的空間での作業中に発生しやすい酸欠事故には、大きく分けて二つのタイプがあります:酸素欠乏症による事故と硫化水素中毒です。これらの事故を理解し、適切な対策を講じることが重要です。

酸素欠乏症による酸欠事故

  • 原因: 空気中の酸素濃度が低下することで起こります。閉鎖空間(例えばマンホール内、古井戸、タンク、ガス管など)では、換気不良により酸素が不足し、酸素欠乏症が発生するリスクが高まります。
  • 対策: 事前の空気品質のチェック、作業中の定期的な換気、酸素濃度計の携帯が有効です。

硫化水素中毒

  • 原因: し尿、腐泥、汚水、パルプ液などを分解する過程で硫化水素が発生します。硫化水素は水に溶けやすく、初期には目や鼻に刺激を与えますが、慣れると感覚が鈍くなり、気づかないうちに高濃度にさらされる危険があります。
  • 対策: 硫化水素ガス検知器の使用、高濃度ガスエリアでの作業時は自給式呼吸器の着用、作業前のリスク評価と教育訓練が必要です。

今回は、そのための救助方法として、万が一作業員等が酸素欠乏症・硫化水素中毒になった場合に、マンホール内で意識を失った作業員を救助するための安全器具や救助システムなどを記載します。

参考ページ:閉鎖空間救助は、都市部や郊外、工場、鉄道車両など、さまざまな場所に存在します。具体的な例としては、マンホール、サイロ、貯水槽、ボイラー、タンク、地下室などがあります。ここでは詳細を記載します。

マンホール救助(立て坑)

マンホールでの救助活動は、特にガスの危険があるため、慎重な対応が必要です。以下は、マンホール救助(立て坑)の際の初動と必要な資器材について、わかりやすく説明した手順です。

初動と必要資器材

  • ガス検知器: マンホール内の酸素濃度や有害ガス(例:硫化水素)の濃度を測定します。
  • 空気呼吸器: 有害ガスが存在する可能性がある場合、救助隊員は安全のため空気呼吸器を着用します。

救助活動の手順

ガス検知器での計測:

  • 空気呼吸器を着装した状態で、マンホール内の酸素濃度が18%以上あるか、硫化水素等の有害ガス濃度をガス検知器で計測します。
ガス検知器 
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空気ボンベの使用:

  • 検知されたガス濃度が低い場合、空気ボンベのそくし弁を開放し、マンホール内に空気を送り込んで環境を改善します。

送排風機での換気:

  • 必要に応じて送排風機を使用し、マンホール内の換気を行います。換気は活動に支障が出ない程度に行います。
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送排風機

要救助者への呼びかけ:

  • 要救助者に対して氏名や生年月日を尋ねるなどして呼びかけ、意識の有無や状態を確認します。ここでは、SAMPLE(症状、アレルギー、服薬歴、既往症、最後に食べたもの、事故の経緯)の原則を用います。

安全対策の実施:

  • パイロンを設置して、転落防止措置を取り、救助活動のための安全な空間を作成します。

救出方法の選択:

  • 要救助者が歩行可能であれば、梯子を使って救出します。
  • 歩行不可能、または意識状態が悪い場合は、ロープレスキュー技術を使用して安全に救助します。

この手順により、マンホール内で発生した酸欠事故やガス中毒事故に対して、効果的かつ安全に対応することが可能です。救助活動にあたっては、常にチームでの作業と、安全第一の原則を守ることが重要です。

【救助工作車が進入可能】

救助工作車が進入可能な場合の救助活動手順は、以下のようになります。

救助活動の準備

救助工作車クレーンの設置:

  • 救助現場において、救助工作車のクレーンを使用して支点を作成します。これにより、ロープを安全に垂らすことができる基盤を確立します。

ロープの準備:

  • 2本のロープをクレーンから垂らし、救助隊員が使用するための降下路を設定します。

救助隊員の降下

制動器具の使用:

  • 救助隊員は、制動器具(例:IDデバイス)を使用して、一本のロープを通じて安全に降下します。この装置により、降下速度を調節し、隊員の安全を確保します。

救助装備の携行

携行資器材:

  • 救出用縛帯(サバイバースリングまたはピタゴール)、ネックカラー、追加のロープ(小綱)、ガス検知器など、必要な救助装備を携帯します。

要救助者の救出

ネックカラーとピタゴールの装着:

  • 救助現場に到達した隊員は、要救助者にネックカラーとピタゴール(またはサバイバースリング)を装着します。これらは、救出時の要救助者の安全を確保するための装備です。

フックとロープでの誘導:

  • 救助隊員は、クレーンのフックを使用してロープ等を誘導しながら、要救助者を安全に救出します。このプロセスでは、ロープを使って要救助者を安定させ、救助工作車まで安全に移動させます。

この手順を踏むことで、救助工作車が進入可能な状況における救出活動を効率的かつ安全に実行することができます。救助活動においては、常に隊員の安全と要救助者の状態を最優先に考え、計画的に行動することが重要です。

参考ページ:「救助活動でクレーンを使用できますか?」こういった救助活動に関する質問が過去に多くありました。ここでは詳細を記載します。

【救助工作車が進入不能】

救助工作車が進入不能な場合の救助活動では、手動の装置や技術を駆使して救出を行います。ここでは、そのような状況での救助方法をわかりやすく説明します。

救助活動の準備

上部支点の作成:

  • アリゾナボーテックスや梯子を使用して、救助地点の上部に安定した支点を作成します。この支点は、救助隊員がロープを通して降下・昇降するための基点となります。

ロープの設置:

  • 上部支点から2本のロープを垂らし、一本は救助隊員の降下用、もう一本は救出された人を支えるために使用します。

救助隊員の降下

制動器具(ID)の使用:

  • 救助隊員は、制動器具(ID)を用いて、降下用ロープを通して安全に降下します。ID装置により、降下速度の調整が可能になり、救助活動の安全性が向上します。

救出装備の携行

携行資器材:

  • 救出用縛帯(サバイバースリングまたはピタゴール)、ネックカラー、追加のロープ(小綱)、ガス検知器など、救出活動に必要な装備を携行します。

救出活動

4倍力の作成:

  • 上部支点を利用して、ロープシステムに4倍力(力点増幅システム)を作成します。これにより、救助隊員が要救助者をより容易に、そして安全に昇降させることができます。
上部支点に4倍力を作成する

要救助者への装備装着:

  • 救助隊員が降下した後、要救助者にネックカラーとピタゴール(またはサバイバースリング)を装着します。

ロープでの誘導と救出:

  • 装備を装着した要救助者は、救助隊員によりロープを使って誘導しながら、安全に救出地点まで移動させられます。

この手順により、救助工作車が進入不能な状況でも、効果的かつ安全に救助活動を行うことができます。救助にあたっては、常にチームワークと安全を最優先に考慮し、適切な準備と装備を整えることが重要です。

参考ページ:アリゾナボーテックスは、長年の実験的開発から作成されたマルチポッドです。ボーテックスは、今まで使用していた資器材にはない、多機能な使用方法で救助活動に活躍します。ここでは詳細を記載します。

酸素欠乏と硫化水素

酸素欠乏と硫化水素は、マンホールや下水道敷設のような作業で遭遇する危険な状況です。これらの環境で安全に作業を行うためには、以下の基本的な知識が重要です。

酸素欠乏

  • 酸素濃度の基準: 正常な大気中の酸素濃度は約21%です。酸素濃度が18%未満の環境は、酸素が不足していると見なされ、危険区域と判断されます。
  • 危険性: 酸素濃度が低下すると、頭痛、めまい、呼吸困難などの症状を引き起こし、さらに低下すると意識不明や死に至る可能性があります。
  • 対策: 酸素濃度計を使用して作業前に必ず空気の品質をチェックし、十分な換気を確保するか、自給式呼吸器の着用が必要です。

硫化水素

  • 危険性の基準: 硫化水素の濃度が10ppm(パーツ・パー・ミリオン)以上の場合は、危険区域とみなされます。硫化水素は、低濃度でも目や呼吸器に刺激を与え、高濃度では即死にもつながる非常に危険なガスです。
  • 臭いに注意: 硫化水素は低濃度では腐った卵のような臭いがしますが、高濃度になると臭いを感じなくなるため、臭いだけで安全を判断しないことが重要です。
  • 対策: 硫化水素検知器を使用してガスの濃度を確認し、必要に応じて防毒マスクや自給式呼吸器を着用します。また、風上に立つ、作業は短時間で行うなどの注意も必要です。

参考ページ:硫化水素自殺は、周囲に及ぼす危険性が非常に高く、適切な対応が不可欠です。特に救助活動や現場対応では、ガスの特性を理解し、安全を最優先にした行動が求められます。ここでは詳細を記載します。

測定方法

酸素や硫化水素などのガスを測定する際の安全な手順は、作業員の生命を守るために非常に重要です。以下は、酸欠空気や硫化水素ガスの測定方法についてのわかりやすい説明です。

安全装備の確実な着装

  • 作業を始める前に、自給式呼吸器を正しく着装し、外部の空気を一切吸い込まないようにしてください。これは、たとえ一呼吸であっても、酸欠空気や有毒ガスの吸入により死亡する危険があるためです。

測定ポイントの選定

  • マンホールやタンク内では、酸欠空気や硫化水素が特定の場所に滞留しやすい傾向にあります。特に、空間の角や低い位置に有害ガスが溜まりやすいため、これらの場所を中心に測定を行うことが重要です。

複数箇所での測定

  • 5か所以上の異なるポイントで測定を行い、空間全体の空気品質を確認してください。これにより、局所的に危険なガスが溜まっている場所を見逃さず、より正確な安全評価が可能になります。

測定器具の使用

  • 測定には、酸素濃度計硫化水素濃度計(またはこれらのガスを測定できるマルチガス検知器)を使用します。測定器具は事前に校正し、正確な読み取りができる状態に保ってください。

安全対策の徹底

  • 測定中は、常に安全を最優先に考え、不安定な場所での測定や単独での作業を避けるなど、リスクを最小限に抑える行動を心がけてください。

状況により、ラダー・レスキューでの救出も考慮してください。

参考ページ:ラダーレスキューシステムは、高所や不安定な地形での救助活動において非常に重要な役割を果たします。ここでは詳細を記載します。

硫化水素の物理化学的特性

  • 分子構造: 硫化水素(H₂S)は、硫黄原子に2つの水素原子が結合した化合物で、極性分子です。極性があるため、水に溶解しやすく、湿度の高い環境では特に注意が必要です。
  • 溶解度: 水への溶解度が高いことから、湿度の高い場所や液体の近くでは硫化水素の蓄積が進みやすくなります。このため、液体中の濃度変動も定期的に測定する必要があります。
  • 酸性度: 水と接触すると弱酸性を示し、水溶液中で硫化水素が分解し、硫化物イオン(HS⁻)と水素イオン(H⁺)を生成します。この特性により、環境によっては腐食が発生する可能性があり、特に金属製の装置や管材に影響を与えることがあります。

硫化水素の動態と代謝

  • 呼吸器吸収: 硫化水素は、非常に迅速に肺から血流に吸収されます。特に高濃度下では、数秒以内に呼吸停止や意識喪失が起こるため、酸欠状態での暴露と同様に危険です。また、血液中ではヘモグロビンと結びつき、酸素の運搬能力を阻害します。これにより、全身的な酸素欠乏を引き起こす可能性があります。
  • 生体内の代謝: 体内では主に肝臓で代謝され、硫酸やチオ硫酸に変換されて尿中に排泄されますが、急性の中毒時には十分な代謝が追いつかず、死亡に至る可能性が高いです。

臨床的症状の進行メカニズム

  • 低濃度(1~50ppm)での影響: 目、鼻、喉などの粘膜に対する刺激症状が現れます。この刺激は、硫化水素が細胞膜に作用し、神経を刺激することで発生します。
  • 中濃度(50~300ppm)での影響: 頭痛、めまい、悪心、筋力低下といった中毒症状が発生します。硫化水素はミトコンドリアの呼吸鎖を阻害し、細胞レベルでのエネルギー生産を妨げるため、これらの症状が現れます。
  • 高濃度(300ppm以上)での影響: 一瞬で意識を失う場合があります。これは、硫化水素が脳幹の呼吸中枢を直接抑制し、呼吸停止を引き起こすためです。死亡例の多くはこのレベルで発生します。

硫化水素の検知技術

  • 光散乱法: 硫化水素濃度を測定する一般的な技術の一つが、紫外光や可視光を用いた光散乱法です。この方法は、検知器内でガスと光を接触させ、ガスが光を吸収または散乱する度合いを測定することにより濃度を算出します。光散乱法は、リアルタイムでの濃度変動の測定に優れています。
  • エレクトロケミカルセンサー: エレクトロケミカルセンサーでは、硫化水素がセンサー内の電極に吸着され、電気化学反応が起こります。この反応により生成される電流の強さを測定することで、硫化水素の濃度が決定されます。エレクトロケミカルセンサーは、非常に高い感度を持ち、ppm単位の微細な濃度も測定可能です。
  • デジタルマルチガスモニター: 近年のデジタルマルチガスモニターは、硫化水素を含む複数の有害ガスを同時にリアルタイムで測定できるように設計されています。これにより、単一ガスだけでなく、複合的な危険環境に対応できることが利点です。

硫化水素暴露後の医学的対応

  • 酸素療法: 硫化水素中毒の緊急治療として、100%酸素を用いた酸素療法が最も有効です。高濃度酸素の供給により、血中の硫化水素の置換を促し、呼吸停止や神経症状を改善します。
  • ハイパーバリック酸素療法(HBO): 特に重度の硫化水素中毒患者には、ハイパーバリック酸素療法(HBO)が推奨されます。高圧環境下で純酸素を吸入することで、硫化水素をより効率的に除去し、組織の酸素供給を改善します。この治療法は、意識不明や呼吸停止を伴う重篤な中毒症例で高い効果を発揮します。

高度な安全対策とシステム

  • 閉鎖空間救助のための自動化システム: 最新の技術では、閉鎖空間での救助作業を支援するために、無人機(ドローン)や自動ロボットを用いた環境モニタリングが進んでいます。これらの自動化システムは、硫化水素やその他の有害ガスのリアルタイムデータを救助隊に提供し、人間の救助者が直接危険に晒されることを回避できます。
  • スマートPPE(Personal Protective Equipment): スマートヘルメットやスマートバンドは、作業員の健康状態や環境データをリアルタイムで監視し、硫化水素濃度が危険レベルに達すると即座に警告を発します。また、位置情報やバイタルサインを遠隔で監視するシステムと連携することで、救助活動の迅速化と精度向上を図ります。

まとめ

初動で必要資器材

ガス検知器 呼吸器 

・ガス検知器で計測(酸素濃度18%以上あるかor硫化水素濃度等)

※必要があれば送排風機で換気

・要救助者に呼びかけ(氏名 生年月日 GUMBA)

・歩行可能であれば梯子をかけて救出

歩行不可能である場合や意識状態が悪い等はロープレスキューを使用

・パイロンを設置し、上部支点を設定

【救助工作車が進入可能】

・クレーンを使用し支点を作成

・ロープを2本垂らし、隊員1名を降下させる

携行資器材 サバイバースリングorピタゴール ネックカラー ロープ ガス検知器

・ネックカラーピタゴール等装着し、フックを降下させロープで誘導しながら救出

【救助工作車が進入不能】

・呼吸器のそくし弁開放し、マンホール内に挿入(内部環境が変わるため2次災害注意)

・アリボーか短梯子で上部支点を作成し、ロープを2本垂らし、隊員1名をIDで降下させる

★携行資器材 サバイバースリングorピタゴール ネックカラー ロープ ガス検知器

・上部メインに4倍力 ビレーを作成する

・ネックカラーピタゴール等装着し、ウエビングで誘導しながら救出

参考動画

マンホール救助のチェックリスト

以下に、マンホール救助(立て坑)および低所救助のチェックリストを表形式で作成しました。

項目チェック内容備考
初動と必要資器材
ガス検知器酸素濃度(18%以上)と有害ガスの測定
空気呼吸器救助隊員の安全確保のために着用
送排風機必要に応じてマンホール内の換気を実施
要救助者への呼びかけ意識の有無を確認(SAMPLEの原則)
パイロン設置転落防止措置として設置
救助工作車が進入可能な場合
クレーンの設置支点を作成
ロープの準備2本のロープをクレーンから垂らす
制動器具(ID)の使用降下時の安全確保
携行資器材サバイバースリングまたはピタゴール、ネックカラー、追加のロープ、ガス検知器
要救助者の救出ネックカラーとピタゴールを装着し、フックとロープで誘導し救出
救助工作車が進入不能な場合
上部支点の作成アリゾナボーテックスや梯子を使用
ロープの設置2本のロープを垂らす
制動器具(ID)の使用降下時の安全確保
携行資器材サバイバースリングまたはピタゴール、ネックカラー、追加のロープ、ガス検知器
4倍力の作成上部支点を利用して力点増幅システムを作成
要救助者の装備装着と救出ネックカラーとピタゴールを装着し、ロープで誘導しながら救出
安全対策
酸素濃度計と硫化水素濃度計事前に空気の品質を確認
自給式呼吸器の着装酸素欠乏症や硫化水素中毒対策
複数箇所での測定空間全体の安全性を確認
安全装備の確認作業中の安全を最優先に

この表を使用して、救助活動時の安全と効率を確認・管理できます。

参考文献

専門書籍と教育資料

  • 閉鎖空間での作業安全ガイド: 閉鎖空間での安全な作業方法、リスク評価、緊急事態への対応策を説明したガイドブック。
  • 高所・低所救助技術: 高所や低所、限定空間での救助技術に特化した書籍やトレーニングマニュアル。
  • 有害ガスと酸素欠乏環境の安全管理: 有害ガスの検知、酸素濃度の管理、換気方法に関する専門書。

専門機関と組織

  • 国際労働機関(ILO): 国際的な労働基準や安全衛生に関するガイドラインを提供。

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