適切な消火活動を実施するには、まず火災性状を知ることが重要です。火災性状を知って上で消火理論を考え現場活動することが最善です。
火の発生方法を知らなければ、火の消火方法もわからない!
火災の定義
「火災」とは、人の意図に反して発生し若しくは拡大し、又は放火に より発生して消火の必要がある燃焼現象であって、これを消火するために 消火施設又はこれと同程度の効果のあるものの利用を必要とするもの、又 は人の意図に反して発生し若しくは拡大した爆発現象をいう。
燃焼の4要素(FIRE TRIANGLE)
モノが燃えるには、次の4つの要素が必要です。これらを燃焼の4要素といいます。
- 可燃物
- 酸素供給体
- 点火源(熱源)
- 化学連鎖反応
可燃物
可燃物とは「燃える物質」です。
木材、紙、油などです。
消防士として知っておくことは、煙も可燃物になるということです。
酸素
酸素を含み、供給する物質です。
可燃物に結びついて可燃物を燃やすもの。
熱源(エネルギー)
火気や火花、静電気などの熱源(点火エネルギー)のことです。
火気、火花、静電気、摩擦熱などです。
化学連鎖反応
燃焼が継続していくためには連続した酸化反応が必要です。
酸化の連鎖反応のことを燃焼の継続といいます。
参考ページ:火は物質の状態変化であり、その化学反応から光を放ち、熱を発生させます。火災とは何か?をわかりやすく解説します。
煙
煙を知ることが現場活動に役立ちリスク回避にもつながります。
煙とは、不完全燃焼によって発生した固体や液体の微粒子を含んだ空気のことを言います。
煙のことを気体のみだと思っている人も多いですが、煙は気体だけでなく固体や液体も混ざっています。
物が燃えるところを想像してほしいですが、煙が発生する場合と煙が発生しない場合があります。
この煙が発生する場合が”不完全燃焼”になります。
不完全燃焼とは物が燃えるときに、空気中の酸素が足りずに炭素とうまく合体できない状態になります。
そして炭素はしっかり酸素と合体することができれば二酸化炭素になりますが、酸素が足りていなければ炭素は一酸化炭素という有毒の気体に変化します。
化学式として見れば二酸化炭素は”CO2”、一酸化炭素は”CO”となります。
酸素(O)が足りていない状態で発生するのが一酸化炭素です。
一酸化炭素には中毒性があり、少し吸うだけでもとても危険です。
黒い煙と白い煙の正体は?
黒い煙と白い煙の正体とは何か‥
結論から言ってしまうと、黒い煙は炭素の微粒子で白い煙は水の微粒子です。
つまりは黒い煙は炭素(固体)の小さな粒が集まってできていて、白い煙は水(液体)の小さな粒が集まってできているということです。
黒い煙と白い煙のほとんどがこれに当てはまります。
白い煙というのは水蒸気と考えてください。すべてではないですが‥
火事での煙と言えば私たちが想像するのは、多くが黒い煙のことと思います。
煙とは不完全燃焼によって発生した固体や液体の微粒子を含んだ空気のことですが、これはどちらかと言えば黒い煙のことを指しています。
そして物が燃えて不完全燃焼した場合には、炭素の微粒子だけでなく一酸化炭素についても発生します。
(不完全燃焼で発生した炭素の微粒子のことを煤(すす)と言います)
物が燃えて酸素が足りているとき(完全燃焼)は二酸化炭素が発生して、酸素が足りないとき(不完全燃焼)は炭素の微粒子と一酸化炭素が発生します。
何度も言いますが、黒い煙には有毒の一酸化炭素が含まれている可能性が非常に高いです。
建物火災時には一般にどのようなガスが発生し、そのガスはどのような毒性があるか
一酸化炭素(CO)
COを 吸入すると血液中のHb(ヘ モグロ ビン)と強く結合 し,血液の酸素運搬能力 を減じ,組織の酸素不足 を招来して酸素不足に敏感 に反応する脳細胞にまず障害 がおよぶ。住宅火災で発生する煙の物質の半数が一酸化炭素でできている。
シアン化水素(HCN)
極めて微量であっても猛毒性があり,生体の酸化酵素の鉄分子と結合して酸素活性作用を阻害し,胸
部を締あっけられるような疼痛とともに呼 吸困難 に陥り,ついには死 にいたる。
その他のガス
NH3(アンモニア),NO2(二酸化窒素),SO2(二酸化硫黄),水素アルデヒド等
物質の発火点
物質を空気中で加熱するとき、火源がなくとも発火する最低温度を発火点という。 |
物質名 | 発火点(℃) | 物質名 | 発火点(℃) | |
水素 | 500 | ゴム | 350 | |
メタン | 537 | コルク | 470 | |
エタン | 520~630 | 木材 | 250~260 | |
プロパン | 432 | ディーゼル燃料油 | 225 | |
エチレン | 450 | 模造紙 | 450 | |
アセチレン | 305 | さらし木綿 | 495 | |
一酸化炭素 | 609 | 木炭 | 250~300 | |
硫化水素 | 260 | 二硫化炭素 | 90 | |
二硫化水素 | 346~379 | 泥炭 | 225~280 | |
ベンゼン | 498 | アニリン | 615 | |
コンプレッサー油 | 250~280 | アセトン | 469 |
黒煙は煤や一酸化炭素が多く含まれており、活動の際は注意が必要。
不完全燃焼時の黒煙に存在する一酸化炭素にも発火点があり、煙は燃えるというのを周知しておく。
火事が起きたら、黒い煙や白い煙が出ることがあるけど、その違いを知っておくと役立つよ。黒い煙は「不完全燃焼」っていう、酸素が足りない燃え方で出てくるもので、炭素の微粒子が多くて一酸化炭素も含まれることが多いんだ。一酸化炭素は有毒で、ちょっと吸うだけでも危険だから気をつけなきゃね。一方、白い煙は主に水蒸気が元になっているから、毒性は少ない。また、不完全燃焼の時に出る黒い煙は火がつくこともあるんだ。火事で煙が出ている時は、煙がただの気体だけじゃなくて、固体や液体の小さな粒子も混ざっているって覚えておくといいよ。煙の種類や成分によって危険度も違うから、火事現場での活動には注意が必要なんだよね。
火を押す(PUSHING FIRE)
煙と火の流動性について解説します。
大量放水や流量の誤った勢いのある放水等では、水蒸気の膨張や放水の勢いにより火勢が押し出され、延焼拡大されることがある。
以下の動画で放水による延焼拡大がわかります。流量の少ないストレート放水ですと、空間冷却され熱成層が崩れないのですが、噴霧で放水すると熱成層が崩れ 余分な放水の勢いにより火勢が押し出されるのが確認できます。
動画を見たらわかるように、噴霧注水は火勢を押し出してしまうデメリットがあります。その点適正な流量のストレート放水では、熱成層をつぶさずに火を延焼させることもありません。
👆絶対ダメ!霧の流れが窓を覆い、火が通るのを防ぎます。これにより、蒸気とガスが構造物の内部に押し込まれる可能性があります。
噴霧注水は熱成層をつぶし、水蒸気を大量に発生させてしまいます。そして煙の吹き返しにより隊員が受傷してしまう危険があります。その点ストレート放水は空気を送り込まず、乱流防止効果がある。
志太消防さん検証ありがとうございます‥<m(__)m>
日本で起きた実際の火災動画ですが、消防隊到着前より消防隊到着しの放水開始後(1:40以降)のほうが炎の勢いが増しているのがわかります。おそらく動画の奥側から噴霧放水したため火が押されたこと及び空気が流入し延焼が増したと思われる。
動画30秒では1階の一室及び2階部分の一部が延焼しているのみであるが、間違った放水により火勢を拡大させている。
消防士が火災を拡大させるな!!
効果のある放水をせよ!!
煙や火は流動しやすい
基本的に放水はストレートを優先することが望ましい
参考ページ:放水で火を押す現象のことを米国では、「プッシングファイヤー」と呼びます。プッシングファイヤーとは何かをわかりやすく解説します。
水で火が消えるのはなぜ?
水は消火剤として非常に優れています。 その理由は、水が熱を奪い、火の燃焼に必要な温度を下げるからです。 また、水がかかると、燃えている物に酸素が届かなくなり、火が消えます。 さらに、水は気化する際に多くの熱を吸収するため、火を消す効果が高いのです。
しかし水も使い方を誤ると
しかし、水を使う際には注意が必要です。 例えば、熱をたくさん持った物質に水をかけると、大量の水蒸気が発生します。 この水蒸気は上昇し、周囲の空気と混ざりながら熱を放出し、天井付近の煙を下に引き下げることがあります。 この現象が起きると、消防隊員などにとって危険な状況が生じることがあります。
総じて、水は非常に効果的な消火剤ですが、使用する際には慎重さが求められます。 消防活動は複雑で、一つの完璧な方法はないと言えます。
放水は使い方を誤ると、燃焼を拡大させてしまい殉職事故にもつながる。
参考ページ:消防士の放水テクニックについて詳しく説明します。
火事で水を使うときって、一見「水だから消火できるでしょ?」って思うかもしれないけど、実は使い方次第で危険なこともあるんだよね。例えば、勢いよく水を噴霧して放水すると、逆に火を押し出して延焼が広がることがあるんだ。特に水蒸気が大量に発生して、煙や熱が天井近くから吹き返してきたり、隊員が危険にさらされたりもする。だから、放水は基本的に「ストレート放水」っていうまっすぐな流れで行うのがベスト。これなら熱や煙の層を崩さず、火を広げずに消火できるんだ。
ろうそくはなぜ燃える?
ろうそくの成分はパラフィンで、主に炭素と水素からできています。
点火すると、まず芯に火がつき、その熱でロウの成分(パラフィン)がとけて液体になります。
液体になったパラフィンは、毛細管現象で芯を伝わって上昇し気化します(蒸気になる)。
気化したパラフィンは、炎の中でさらに加熱によって分解されます。炎のまわりから空気が入り込んできて、酸化反応が起こり、燃えます。
燃えると多量の熱を発生するので、周囲のロウを加熱してとかし分解を起こさせるので、燃え続けることができます。
ろうそくは、芯のみが燃えているわけではなく、パラフィンが気化したガスに引火し燃えています。前述でも説明した通り、火災の際発生する煙は燃えるものですので、熱源がある限り炎は燃え続きます。
参考ページ:煙を読むことで、火災の位置、火災の負荷、燃焼している材料の種類、そして火災の進行方向など、多くの情報を得ることができます。煙の読み方について詳しく説明します。
かかし放水は意味がない?
この動画を見てもらいたいのですが‥
1:10くらいから放水するのですが、発火した煙(可燃性ガス)に放水しているだけで、燃焼物自体に放水しないと消えないのがわかると思います。
皆様も理解していると思っていますが、火の消し方は消火器と同じで、燃え盛る炎に放水しても効果はなく、火元に水をまかないと火は消えません。
ガス冷却の原理
火災現場で発生するガス冷却とは、燃焼により発生する高温のガスや煙のエネルギーを低減させ、現場の温度を下げるための技術です。火災が発生すると、火が燃えている物質からガスや煙が放出されます。これらのガスや煙は非常に高温で、消防士が現場に入る際には危険を伴います。そのため、ガス冷却を行うことで温度を下げ、消防士の安全を確保しつつ、火災の拡大を防ぎます。
粒子の運動とエネルギー移動
まず、物質(固体、液体、気体)はすべて小さな粒子、つまり分子や原子で構成されています。これらの粒子は常に動いており、この動きが「運動エネルギー」を持っています。粒子が速く動くほど、その運動エネルギーは大きくなります。
火災現場で放出される煙やガスは、非常に速く動く粒子で構成されており、そのため大量のエネルギーを持っています。この高エネルギーのガスは周囲の温度を上昇させ、さらに放射熱も発生させます。ガス冷却の目的は、これらの粒子の運動エネルギーを減少させることです。
水を使ったエネルギーの移動
ガス冷却を効果的に行うためには、エネルギーを奪う方法が必要です。水を使った冷却がその最も一般的な方法です。水の粒子は、火災現場のガスや煙に比べて非常に低い温度で、動きも遅いです。ここで、水を霧状にして撒くと、多くの小さな水滴が発生します。
この水滴は火災現場の高速で動くガスの粒子と衝突し、ガスの粒子が持つ運動エネルギーを奪います。水滴にエネルギーが移動することで、ガスの粒子は速度を落とし、温度が下がります。これにより、現場の温度が下がり、火の拡大が抑えられるのです。
効果的な水の使い方
水を効率的に使うためには、単に大量の水を放出するだけでは不十分です。ホースから水を「ジェット状」に出すと、外側の部分しかガスに触れず、エネルギーの移動が限られてしまいます。これでは冷却効果が十分に得られません。
そのため、消防士は「霧状の水」を使います。ホースから水を霧状に撒くことで、無数の小さな水滴が発生し、それらが高温のガスと広範囲で接触します。この方法により、より多くの粒子がガスのエネルギーを吸収し、効率的に温度を下げることができます。
消防訓練での技術
ガス冷却の際に、消防士は「短いパルス」と「長いパルス」という2つの方法を使います。
- 短いパルス:周囲のガスや煙を冷却するために、ホースを短く素早く噴射します。これにより、近くのガスの温度を下げ、安全に進むことができます。
- 長いパルス:進行方向に向けて水を撒き、次に進む空間のガスを冷却します。これにより、安全に前進できる環境を作り出します。
例えば、38mmのホースで115リットル/分の水を噴射する場合、霧状の水滴が発生し、これが効果的にガス冷却を行います。
ガス冷却の重要性
ガス冷却は、火災現場での温度を下げるための重要な技術です。これにより、火災が広がるのを防ぎ、消防士が安全に作業できる環境を作り出すことができます。ガス冷却は、火災の進行を抑え、救助活動や火災の制御を効果的に行うための基本的な技術です。
燃焼の基本要素
燃焼が起こるためには、3つの要素が必要です。それは燃料、酸素、そして熱です。この3つが十分に揃うと、燃焼が始まり、続いていきます。これを「燃焼三角形」と呼びます。それぞれの要素がどのように働くのか、具体的に見ていきましょう。
現代の燃料
現代の燃料には、化石燃料や合成燃料、炭化水素ベースの物質が含まれます。これらには、石油、天然ガス、石炭といった燃料があり、さらに植物や動物から作られる有機燃料も含まれます。たとえば、私たちが日常的に使っているプラスチックや家具は、石油から作られる合成素材であり、これらも炭化水素ベースの燃料です。
ポリエステル、ウレタン、PVC(ポリ塩化ビニル)といった合成素材は、すべて原油の蒸留プロセスで得られます。これらの素材は、水素と炭素の原子から構成されており、非常に燃えやすく、燃焼すると多くのエネルギーを放出します。これが、現代の住宅で使われている材料が火災時に急速に燃え広がる原因となっています。
フラッシュオーバーの危険性
火災が始まると、フラッシュオーバーという現象が起こる可能性があります。これは、部屋全体が急激に燃え広がる現象で、現代の材料を使った住宅では火災発生後3~4分で発生することが多いです。1970年代には、この現象が起こるまで17分半かかっていたのに対し、現代では非常に短時間で危険な状態になります。
火災が始まる理由
火災を始めるには、外部からの発火源、つまり熱が必要です。ライターやマッチなどで火をつけると、最初は小さな火ですが、時間が経つと燃焼が広がっていきます。しかし、一度火がついた後、発火源がなくなっても火が燃え続けるのはなぜでしょうか?
それは「酸化」という化学反応によるものです。酸素が燃料と反応してエネルギーを放出し、熱や光を生み出します。この酸化反応が燃焼を維持するエネルギーを生み出し、火が消えずに燃え続けるのです。この酸化反応はエネルギーを放出する「発熱反応」と呼ばれます。
熱分解(パイロリシス)と燃焼の広がり
燃料に熱が加えられると、その表面の原子が振動し、次第に不安定になります。最終的に原子は分解し、気体が発生します。このプロセスは「熱分解(パイロリシス)」と呼ばれます。熱分解で発生した気体は、酸素と反応してさらに熱を発生させ、火災が拡大していきます。
特に現代の合成素材、例えばポリウレタンやポリエステルを使用した家具は、非常に燃えやすく、燃焼速度が速い傾向があります。このため、現代の火災は短時間で非常に危険な状態に陥りやすく、迅速な消火活動が求められます。
火災を抑える方法
火災を抑えるためには、以下の3つの方法があります。
- 燃料を取り除く:燃料がなければ火は燃え続けることができません。燃焼物を取り除くことで火を抑えることができます。
- 酸素を遮断する:酸素がなければ燃焼は起こりません。消火器や防火シートで酸素を遮断する方法があります。
- 熱を取り除く:水をかけることで熱を奪い、燃焼を止めることができます。これにより、火の広がりを防ぐことができます。
発熱反応と燃焼の仕組み
燃焼が進むとき、エネルギーが放出される「発熱反応」が起こります。例えば、炭素が酸素と結びついて二酸化炭素(CO2)を作るとき、エネルギーが出ます。もし酸素が少なければ一酸化炭素(CO)ができ、水素と酸素が結びつけば水(H2O)が生成されます。これもすべてエネルギーを放出する反応です。
燃焼過程では、酸素原子が結びついて新しい分子ができるたびにエネルギーが発生し、その熱が燃料に伝わってさらに燃焼を促進します。この一連のプロセスを「酸化反応」と呼び、燃料、酸素、熱の3つの要素が揃えば火はさらに大きくなり、最終的には自己維持されるようになります。
しかし、その前に点火源を取り除けば燃焼は止まります。逆に、自己維持の状態に達した後で点火源を取り除いても、酸化反応が燃焼を続けるための熱を供給し続けるので、燃焼は続きます。
Foremanの法則
1979年にForemanという研究者が、有機燃料を燃焼させたときに酸素の消費量とエネルギー放出量の関係を見つけました。彼の研究では、1キログラムの酸素を使うと、どんな有機燃料でもほぼ同じエネルギーを放出することがわかりました。プラスチックや木を燃やしても、消費する酸素の量が同じなら、発生するエネルギー量もほぼ同じです。
これは消防士にとって重要な情報です。例えば、部屋の酸素がどれだけの時間で消費されるかを予測できるため、火事が起きたときの行動計画が立てやすくなります。火を遅らせるためには、火元の部屋のドアを閉めるようにするなどの対策が有効です。
Thornton(サーントン)の法則
サーントンの法則は、酸素の供給が火の成長に与える影響を示しています。たとえば、部屋のドアを完全に開けた場合、酸素が大量に供給されて火が急速に燃え広がる「フラッシュオーバー」が起こります。この現象は、部屋の温度が急激に上昇し、未燃焼の表面が自己着火温度に達することで発生します。
消防士が火事の現場に到着してドアを開けると、酸素が急激に供給され、火が勢いを増すことがあります。しかし、火を消すためにはドアを開ける必要があり、消防士はこの酸素の影響を理解した上で作業を進めます。
サーントンの法則に関して、酸化は化学反応の一つです。これは、燃焼プロセスにおいて重要な役割を果たしますが、燃焼の「熱」と混同しないようにしてください。酸化は単純に酸素が他の物質と反応して新しい物質を作り出す反応です。たとえば、ナイロンの分子構造を例にとると、原油に含まれる水素や炭素と似ており、有機化合物として同様の性質を持っています。ナイロンも燃焼時に酸化反応を起こしますが、この反応は燃焼熱の生成とは異なります。
酸化と燃焼の違い
サーントンの法則は、酸化が関与する化学反応において、エネルギーの移動に注目しています。例えば、1キログラムのプラスチックと1キログラムの木材を燃やすと、プラスチックの方がより多くのエネルギーを放出します。これは燃焼プロセスにおける燃料の特性の違いによるものです。サーントンの法則は、酸化そのもののエネルギー移動を説明し、燃焼の激しさや持続時間を考慮したものではありません。
火災におけるエネルギーの移動
火災が進行する中で、エネルギーは熱として周囲に広がります。炎から発生する熱は、空気中に上昇し、天井近くに達すると蓄積されます。この熱は「中性面」と呼ばれる層を形成し、そこから隣接する部屋にも広がります。この過程で、煙やガスが高圧状態になり、低圧の部屋へと移動します。この移動は、燃焼が進むにつれて部屋全体に影響を与える重要な要素です。
放射熱の影響
火災が進むにつれて、中性面が低くなり、放射熱(赤外線)の影響が強くなります。放射熱は、燃えている火元から直接放出され、部屋全体の温度を急速に上昇させます。例えば、キャンプファイヤーの近くに立つと、熱を強く感じるのは放射熱によるものです。放射熱は時間、距離、遮蔽によって軽減されます。放射の影響が強くなるにつれ、火災現場での被ばくを最小限に抑えるために、これらの要素を活用することが重要です。
フラッシュオーバーと換気誘発型フラッシュオーバー
火災が進行し、部屋の中の燃料が十分に加熱されると、突然の火災拡大(フラッシュオーバー)が起こります。これは、部屋内の温度が高まり、可燃物が自動発火点に達すると、一気に部屋全体が炎に包まれる現象です。
酸素が不足すると、火は一時的に鎮静化しますが、酸素が再び供給されると急激に火が再燃し、激化することがあります。これを「換気誘発型フラッシュオーバー(ventilation-induced flashover)」といいます。この現象は、火災の進行中に閉ざされた部屋に酸素が供給された場合、突然火勢が強くなり、部屋全体が再び燃え上がる状況を指します。
バックドラフトと熱分解
酸素が不足しても、熱分解(pyrolysis)というプロセスは続きます。これは、酸素がない状態でも高温下で物質が分解し、可燃性ガスが放出される現象です。このガスが酸素と接触すると、バックドラフトという爆発的な燃焼が発生する可能性があります。バックドラフトは、酸素不足の状態で燻っていた火災が、酸素供給の再開によって突然爆発的に燃え上がる危険な現象です。
火災の際に発生する煙の成分と変化について、わかりやすく説明します。
燃焼時に発生する有害ガス
火が燃えると酸素が消費され、煙の中の成分が変わります。酸素が少なくなると、一酸化炭素(CO)などの有害なガスが多くなります。また、他にもさまざまな危険なガスが発生します。
- シアン化水素(HCN): 皮膚からも吸収される有毒ガスで、発がん性があります。
- ホルムアルデヒド(CH2O): 燃焼時に多く放出される化学物質で、家具や木材が燃えるときにも発生します。
- ベンゼン(C6H6): 発がん性の高いガスで、火災時に発生することがあります。
これらのガスは無色で見えないため、煙に含まれていても私たちの目には見えません。しかし、それらは煙の体積を増やし、健康に悪影響を与えます。
可視成分:煙の色とその意味
酸素が少なくなると、燃焼が不完全になり、燃え残った炭素(煤)が煙に混ざります。これが煙を黒くする原因です。煙が黒いほど、火が効率よく燃えていないというサインです。
- 黒い煙: 燃焼が不完全で、未燃焼の炭素が含まれている状態です。これは火が強く、酸素が不足しているときに見られます。
- 茶色や白い煙: 燃焼物の種類や、木材などが熱で分解されるときに発生します。これも有害ですが、黒い煙ほど危険ではないことが多いです。
煙の中の可燃性成分
煙の中には、可燃性のガスが含まれています。これらのガスは、ある一定の範囲の濃度で混ざると非常に燃えやすくなります。この範囲を「燃焼範囲(フラマブルレンジ)」といいます。
- 理想的な燃焼範囲: ガスと空気がちょうどよく混ざった状態で、最も早く燃える状態です。このときの炎は青色になります。
- 燃焼しにくい場合: 空気が多すぎるか、ガスが多すぎると燃焼しません。しかし、酸素が追加されると再び燃えやすい状態になることがあるため、火災現場での注意が必要です。
煙の動きと拡散
火災が続くと、煙は建物内でどんどん広がります。煙は天井近くにたまり、下の方には空気が残ります。この境界を「ニュートラルプレーン」と呼びます。煙は高温で高圧のため、天井から低い場所に向かって広がり、隣の部屋や外に流れ出ます。
- 黒い煙が外に出る: 煙が外に出るとき、窓やドアが開くと酸素が供給され、煙がさらに燃えやすくなることがあります。
煙の色で火災の状況を判断する
黒い煙は火災が激しく燃えていることを示しており、白い煙に変わると火が弱まっているサインです。白い煙は主に水蒸気や一酸化炭素が含まれており、火がくすぶっている状態を反映しています。煙の色や厚さを観察することで、火災の進行状況や火元を推測することが可能です。
天井付近の温度と危険性
火災時、天井付近の温度は600度近くに達し、非常に危険な状態になります。天井の下にはガス分解物がたまり、それが漏れ出すこともあります。天井が損傷している場合、配管やケーブルが落ちてくるリスクがあるため、慎重に行動する必要があります。
ドアを開ける際の注意点
火災現場では、ドアを開けることで空気の流れが変わり、新しい酸素が火をさらに強める可能性があります。ドアを開ける際には、圧力の変化に注意しながら行動し、床近くに身を構えることで安全を確保します。床付近は温度が低く、視界も確保しやすいため、最も安全な場所となります。
消防士の行動指針
消防士が現場に到着したら、以下の重要な行動を守る必要があります。
- 充水されたホースを持つ
- 床近くで移動し、身を守る
- ガス冷却を行い、周囲の温度を下げる
- 速やかに火災に水をかける
- 被災者を見つけたら救助し、役割を引き継ぐ
フラッシュオーバーへの注意
火災現場で特に注意すべきはフラッシュオーバー(突然の全体炎上)です。これは天井付近が非常に高温になり、炎や煙の色が変化する兆候が見られる時に発生します。これに気づいた場合、即座に適切な対処が必要です。
火災時の安全な行動は、状況を的確に判断し、冷静に行動することが重要です。消防士や被災者の安全を守るためには、煙の状態、温度の変化、そしてドアの開閉など、小さな変化に気を配りながら行動することが求められます。
まとめ
・放水は基本ストレート放水を優先し選択する
・放水流量に注意し、熱成層を破壊しない。火を押さない
・煙は可燃物である
コメント
プッシングファイア。これを理解しているかしていないかでは救える命と隊員自身の安全にかなり影響していますよね。ストレートより噴霧のほうが、ノズルから出る水の範囲が広い為に選択したくなりますが、それを行う事によって火災を消すどころか延焼と受傷につながる。火災を消す事をしなければならない人達はこれを理解する必要がありますね。
そのとおりです