概要
日本では、地球温暖化対策として次世代自動車(ハイブリッド車、電気自動車など)の普及が加速しています。これらの車両は高電圧を使用しているため、乗員の感電防止措置が道路運送車両法によって義務付けられていますが、重大な衝突事故の際には感電のリスクが高まることから、消防職員が安全に救助活動を行えるように、感電防止を含む安全管理体制の整備が重要です。また、次世代自動車に関連する事故への迅速かつ安全な対応方法の確立も必要とされています。
次世代自動車を見分ける最も簡易な方法の一つとして、自動車に貼付けられているエンブレムの確認が挙げられます。これらのエンブレムには多くの場合、「HYBRID」などの表示があり、車両のバックドア、前輪フェンダー付近、サイドバンパーなどに配置されています。しかし、全ての次世代自動車がエンブレムを有しているわけではないため、エンブレムだけに頼ることなく、運転手から車両の動力源の種類について聴取することも重要です。
加えて、現代の自動車では、エンジンルーム内に特定の色でマークされた高電圧ケーブルやコンポーネントが存在することがあります。これらは主にオレンジ色や他の警告色でマークされており、救助活動時に消防職員が高電圧システムを識別し、安全対策を取る際の重要な手がかりとなります。
さらに、消防署や救急サービスでは、次世代自動車の特徴、安全対策、および事故時の対応策についての継続的な教育と訓練が必要とされます。このような知識と準備があれば、事故現場での迅速かつ安全な対応が可能になり、救助される人々だけでなく、救助者自身の安全も守ることができます。
【参考】
車検証やコーションプレート(主にエンジンルームやドアの内側部分に貼付)から以下の車両情報を確認することができる。
- MODEL(TYPE)・・・車両型式
- ENGINE・・・エンジン形式
- CHASSIS No.(FRAME)・・・車体番号
- TRANS/AXLE・・・変速機形式
- COLOR(PAINT)・・・外装色
個人防護装備(PPE)
交通事故の救助活動における個人防護装備(PPE)の着用は、救助者自身の安全を確保し、リスクを最小限に抑えるために非常に重要です。以下は、基本的なPPEに含まれるものとその目的についての簡潔な説明です:
- 保安帽(ヘルメット):頭部を衝撃や落下物から保護します。特に、救助活動中に発生する可能性のある頭部への打撃や切創から守るために重要です。
- ゴーグル:目を塵や飛散物、化学物質の飛沫から保護し、視界を確保します。救助活動中には、さまざまな物質が飛び散る可能性があるため、目の保護は必須です。
- マスク:呼吸器系を保護し、感染症のリスクを減らします。微粒子や有害な化学物質、感染源からの保護を目的としています。
- 感染防止衣:液体や血液、その他の体液から全身を守ります。救助者が血液や体液に直接触れることなく、安全に作業を行えるようにします。
- パッド(保護パッド):膝や肘を保護します。救助活動中には、様々な姿勢で作業を行うため、これらの部位の保護が重要です。
- 手袋:物理的保護を提供するケブラー製や皮製の手袋と、衛生的保護を提供するディスポーザブルグローブがあります。作業内容に応じて適切な手袋を選びます。
- 安全ベスト:高い視認性を確保するために、反射材料が付いたベストを着用します。これにより、救助者が夜間や視界が悪い状況でも容易に識別できるようになります。
- 絶縁保護具:感電防止用の耐電ヘルメット、手袋、衣類、長靴を含みます。これらは特に、電気自動車やハイブリッド車の事故において重要な装備です。
- 防火衣と防火ズボン:火災のリスクがある場合に着用します。これらは熱や火から身を守り、必要に応じて空気呼吸器と組み合わせて使用します。
これらのPPEは、救助者が事故現場で直面する様々な危険から身を守るために不可欠です。特定のリスクに応じて適切なPPEを選択し、着用することで、救助者はより安全に作業を行うことができます。
活動内容
以下は、ハイブリッド車の取り扱いにおいて行うべき活動内容についての要約です。安全なメンテナンスと救助活動を行うために、これらのステップを慎重に実行してください。
1. 車両の固定
- 輪止め: 車が動かないように、輪止めを行ってください。
- パーキングブレーキの使用: パーキングブレーキをかけて、車両が固定されるようにします。
- シフトレバーの調整: シフトレバーをP(駐車)ポジションに設定してください。
2. 補機類の事前処理
- パワーシートの位置調整: パワーシート装着車の場合、必要に応じてシートの位置を調整してください。
- ドアガラスの開放: 安全な作業環境を確保するため、ドアガラスを開けておきます。
- ドアロックの解除とバックドアの開放: 車内へのアクセスを容易にするために、ドアロックを解除し、バックドアを開けてください。
- 注意: 補機バッテリーを切り離す前に、上記操作を完了させてください。バッテリー切り離し後は操作ができなくなります。
3. ハイブリッドシステムの停止
- ハイブリッドシステムの確認: エンジンが停止していてもハイブリッドシステムが停止しているわけではありません。メーター内のREADY表示灯を確認し、システムが起動状態か停止状態かを判断してください。READY表示灯が消灯していれば、システムは停止状態です。
- 安全性の確保: ハイブリッドシステムが停止(IG OFF)状態になっていない場合、SRSエアバッグの突然の展開や高電圧システムによる重大な傷害のリスクがあります。レスキュー活動を行う前に、必ずハイブリッドシステムが停止していることを確認してください。
これらの手順は、ハイブリッド車の安全な取り扱いに必須です。特にハイブリッドシステムの停止確認は、救助活動やメンテナンス作業を安全に行うために最も重要なステップの一つです。
ハイブリットシステム停止方法
ハイブリッドシステムの停止方法についてわかりやすく説明します。ここでは、緊急時やメンテナンス時にハイブリッド車のシステムを安全に停止させるための手段を3つ紹介します。
手段1:基本操作
READY表示の確認
- メーターパネルにある「READY」表示灯が点灯しているかを確認します。点灯している場合は、システムが起動中です。
パワースイッチの操作
- READY表示灯が点灯していれば、パワースイッチを1回押してハイブリッドシステムを停止させます。その後、メーターとREADY表示灯が消灯したことを確認します。
- 注意: READY表示灯が消灯している場合は、システムは既に停止しています。この状態でパワースイッチを押すと、システムが起動してしまうため押さないでください。
スマートキーの管理
- スマートキー(電子キー)を車両から5メートル以上離してください。
補機バッテリーの切り離し
- ラゲージルーム内の補機バッテリーのマイナス端子を切り離し、システムの再起動や電気火災を防ぎます。
手段2:パワースイッチが操作できない場合
ボンネットの開閉
- ボンネットを開け、エンジンルーム内のヒューズボックスカバーを取り外します。
ヒューズの取り外し
- IG2ヒューズ(青色、15A)を見つけて取り外します。該当ヒューズが見つからない場合は、全てのヒューズを取り外します。
補機バッテリーの切り離し
- ラゲージルーム内の補機バッテリーのマイナス端子を切り離します。
手段3:絶縁手袋を使用できる場合
リチウムイオンバッテリーの位置確認
- リチウムイオンバッテリーがどこにあるかを確認します。
サービスプラグの取り外し
- 絶縁手袋を着用し、以下の手順でサービスプラグを取り外します。
- サービスプラグをスライドさせる。
- レバーを手前に起こす。
- プラグを引き抜く。
補機バッテリーの切り離し
- ラゲージルーム内の補機バッテリーのマイナス端子を切り離します。
これらの手順は、ハイブリッドシステムを安全に停止させるための方法です。操作を行う前に、車の取扱説明書をよく読み、指示に従ってください。
サービスプラグとは
サービスプラグは、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)など、高電圧を使用する次世代自動車において重要な安全装置です。このプラグの主な役割は、車両の高電圧システムを安全にメンテナンスや修理を行うため、車両の電源を物理的に切断することにあります。サービスプラグを抜くことで、バッテリーやその他の高電圧部品からの電源供給を停止し、作業者が感電するリスクを大幅に低減します。
サービスプラグの位置
- サービスプラグの位置は、車両によって異なりますが、一般的には、車両のボンネット内にあるバッテリー近くに配置されています。
- 正確な位置は、ボンネット内部に貼られた「バッテリー搭載位置インフォメーションラベル」で確認できます。このラベルは、バッテリーだけでなく、サービスプラグの搭載位置も示しており、メンテナンスや緊急時に役立ちます。
サービスプラグの使用方法
安全確認
- 作業を始める前に、車両が停止状態にあり、パワースイッチがOFFになっていることを確認してください。
絶縁手袋の着用
- 高電圧部品を扱う際は、必ず絶縁手袋を着用し、適切な保護措置を取ってください。
サービスプラグの抜き方
- ラベルに従ってサービスプラグの位置を確認し、指示に沿ってプラグを安全に抜きます。通常、特定の手順(スライド、レバーを起こす、引き抜くなど)に従って操作します。
注意点
- サービスプラグは、車両の安全性を確保するために非常に重要な役割を果たします。プラグを抜いた状態での車両の使用や、不適切な方法でのプラグの扱いは大きなリスクを伴います。
- 作業を終えた後は、サービスプラグを正しい手順で元に戻し、高電圧システムが正常に機能することを確認してください。
サービスプラグを抜いて高電圧システムの電源を切断した後も、システム内には少なくとも数分間は電気が残留していることがあります。このため、以下のような状況が観察される場合は、高電圧システムがまだ稼働している可能性があるため、再度確認が必要です。
- エンジンが作動している場合
- パワースイッチがオンの状態である場合
- メーターが点灯している場合
- エアコンが作動している場合
- オーディオシステムが作動している場合
- ワイパーが作動している場合
- ナビゲーションシステムやディスプレイが表示されている場合
これらの状態は、システムが完全にシャットダウンされていないことを示しており、電圧が徐々に下がっていくものの、作業を安全に行うためには絶縁保護具の着用を続ける必要があります。これにより、二次災害を防ぐことができます。
水没時の注意事項
水没時の注意事項についての情報をまとめると、以下のようになります。
- 高電圧バッテリーの防水性: 一般的に高電圧バッテリーやその他の高電圧系統は防水構造になっており、大雨などで車の底部が冠水した程度では、水が内部に侵入することはありません。ただし、車室内にバッテリーが搭載されている場合はこの限りではありません。バッテリーのプラスとマイナスの間に水がかかった場合でも、水を伝わって感電することはありません。
- 水没しても感電の恐れは低い: 電動車両が水没しても、車両に損傷がなければ感電の危険は低いです。パワースイッチをオフにして高電圧を遮断するか、サービスマニュアルに記載された手法で遮断します。高電圧部分に触れる際は、海水でも真水でも絶縁保護具を着用する必要があります。
- 車体との絶縁: 高電圧バッテリーは車体から絶縁されているため、水没状態で車体に触れても感電することはありません。しかし、衝突による高電圧部品の損傷で水が内部に侵入し絶縁性が低下しても、バッテリーパック等により保護されているため、直接接触しない限り感電の恐れは低いです。
- 電源の自動遮断: 水没によって12Vバッテリーの電源が切れた場合、高電圧バッテリーのシステムメインリレーがオフになり、電気回路が成立しなくなる仕組みがあります。
- 高電圧部の露出に注意: 高電圧部が露出している場合や、高電圧回路が遮断されていてもバッテリーパックが損傷していると、内部の高電圧部品に直接接触できる場合があり、感電の恐れがあります。作業時は注意が必要です。
- 水没検知機能: 水没を直接検知する機能はないものの、水没や浸水により絶縁が低下すると、絶縁抵抗監視モニターで検知し、警告灯が点灯します。
- メーカーの指示に従う: 水没時の対応は、自動車メーカーのサービス活動要領や作業手順・注意事項に準拠して行うべきです。
これらの情報は、電動車両が水没した際の基本的なガイドラインを提供します。ただし、具体的な対応は車種や状況によって異なるため、常に専門家のアドバイスやメーカーの指示に従うことが重要です。
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