アリゾナボーテックス

ロープレスキュー

概要

アリゾナ州北部の険しいレッドロック高地に起源があることにちなんで名付けられたアリゾナボーテックスは、長年の実験的開発から作成されたマルチポッドです。ボーテックスは、今まで使用していた資器材にはない、多機能な使用方法で救助活動に活躍します。

アリゾナボーテックスは、汎用性が高く、軽量であるため、遠方またはその他の障害物の上に持ち上げることを可能にし、崖、限られたスペース、鉱山、その他の産業救助またはロープアクセス操作のエッジ緩和に最適です。

上部支点に3連はしごは使わない

救助活動での上部支点作成は、現場にオブジェクトがない場合、3連はしごを使用してきましたが、3連はしごの用途は人が昇降のするための道具あり、救助器具ではありません。
ボーテックスは、上部支点作成専用アイテムなので従来の資器材より安全性、効率性、スピードで優れています。

合力と分力

アリゾナボーテックスを使用するためには、合力と分力の理解が必要となります。

力は合成したり、分解することができます。
図に示すように 力Fは、F1とF2に分解することができます。

このとき、
F は F1 と F2 の「合力」ごうりょく
F1 と F2 は F の「分力」ぶんりょく
といいます。

上の図のように、引く力(分力)2つの間に「合力」という力が働きます。
合力は英語でforce(フォース)といいます。

アリゾナボーテックス使用の上で合力の方向を確認するには、滑車の向きを確認してください。

アリゾナボーテックスは、多機能で軽量だから、崖や狭い場所、鉱山などの救助で大活躍だよ。これまで上部支点には3連はしごを使っていたけど、ボーテックスは支点作成専用のため、効率や安全性がずっと高いんだ。使うときは「合力」と「分力」を意識することが大事で、力の方向を把握するためには滑車の向きも確認しようね。

参考ページ:ここでは、物理学の中でも最も基本的な力学、運動等を記載します。これらの基本を理解したうえで、ロープレスキューや器具の取り扱いをしてください。

3本脚

ボーテックスは、通常3本のレッグを使用する形状で組み立ててください。
3本のレッグを使用するほうが、Aフレームやジンポールと比べて、安全性が格段に上がり、組み立て時間も短縮できます。

イコールトライポット

このフレームはマンホール救助などの立て坑で使用します。
この場合、足の間に三角形を形成し、支点が穴の真上にきます。理想的には、荷重は三角形の中心に吊り下げられるべきで、荷物が三角形の中心から離れると、三脚は転倒する傾向があるため荷重(フォース)が三角形の中心に保たれるように注意する必要があります。
※開き防止のためボブルを確実に脚に装着する

参考ページ:最も基本的な構成であるイコールトライポッドの組み立て方法について詳しく説明いたします

参考ページ:マンホール内で意識を失った作業員を救助するための安全器具や救助システムなどを記載します

イーゼルAフレーム

壁面からの引き上げ救助等のハイアングルレスキューに使用するのが、イーゼルAフレームです。
前足2本と長めの後足1本を使用します。
イコールトライポットと同様に荷物の位置が離れると、三脚は転倒する傾向があるため荷重(フォース)が三角形の中にくるようにしてください。

参考ページ:イーゼルレッグを用いる場面の一つは、崖や急斜面での救助作業です。こうした場所では、救助者が安定した位置から安全に被救助者を引き上げる必要があります。ここでは詳細を記載します

ボーテックスは基本的に3本脚で組み立てて、イコールトライポットはマンホール救助に、イーゼルAフレームは壁面からの引き上げに最適だよ。荷重は三角形の中心にかけるように注意して、転倒を防ぐために必ずボブルを脚に装着してね。

2本脚

Aフレーム等の2本脚は、3本脚と比べて安定性が低いです。
3本脚が組立できない場所で使用するようにしてください。

Aフレーム

Aフレームは左右に安定しているが、前後には安定しません。
このため、フォースをできるだけ前方に保ち、ガイラインに荷重を乗せることが重要です。

ガイラインは30°以上とすることで転倒リスクを軽減します。

Aフレームのガイラインは、通常前後に設置しますが、前方のアンカーが使用できない場合(場所的な理由で)、後方のみのガイラインになります。この場合Aフレームは前後、特に後方への推進力には弱いです。

メインラインは概ね90°の角度になるようにします。

左右には安定するため、ローアングルレスキューに適用します。

サイドウェイAフレーム

参考ページ:ボーテックスを横向きのイーゼルレッグとして活用することができます。ここでは詳細を記載します

サイドウェイAフレームは前後には安定していますが左右の横運動は安定しません。このためガイラインをサイドに固定することが重要です。

メインラインのフォースは、フレームの中央付近に持ってきてください。Aフレームのようにフォースを前方にする必要はありません。

サイドウェイAフレームのガイラインは2本だけですが、後足基底部よりガイラインアンカーが後ろにある場合、ガイラインを設定した際、前足が跳ね上がる可能性があるため注意が必要です。

左右に不安定なため、ハイアングルレスキューに適用します。

参考動画

Aフレームなどの2本脚は安定性が低いので、3本脚が使えない場所でのみ使用しよう。Aフレームは左右には安定するけど、前後に不安定だから、フォースは前方に保ち、ガイラインを30°以上で設置して転倒リスクを減らすと良いよ。サイドウェイAフレームは前後に安定するけど、左右に不安定だから、サイドにガイラインを固定するのが大事。ハイアングルレスキューに適しているけど、前足が跳ね上がらないよう注意してね。

強度と安定性

ボーテックスの強度と安全性を理解する必要があります。


ボーテックスの強度と安定性を最大化する方法は次のとおりです。

・安全使用範囲の2.7kNを超える荷重を使わない

・高さを最小限に抑える

・脚の長さを最小限に抑える。※絶対にアウターレッグ(ロワー)を4本以上にしない

・ホブルに適切な資器材と方法で使用する。三つ打ちロープは伸び率が高いため使用しない。
※確実にすることで、脚への横方向のストレスを最小限に抑えます

・適切な強度のアンカーを選択する

・ボーテックスを使用する隊員全員が十分なトレーニングをうけていること

・角度による荷重の変化
方向プーリーの荷重率を考慮する必要があります。

フットの種類と使用方法

ラプターフット

ラプターフットは交換可能なスチール製の先端を備えており、起伏のある地形に鋭く穴を開けて滑りを防ぎます。脚を曲げたり傾けたりすることによって引き起こされる点荷重や横方向の滑りなどの結果として生じる力を考慮することが重要です。
安定しやすいため救助現場では積極的に使ってください。

ラプターフットの平らな部分が下にくるように設置してください
左図はNGです

使用場所

土、砂場、岩場・・・

柔らかい地面や凹凸のある岩場で使用します。岩場では穴や隙間に差し込みます。

フラットフット

フラットフットは、足を地面に置くことができる場所が滑らかで平らな表面で使用されます。
よく滑るため救助現場での使用は極力避けてください。

フラットフットのボールジョイントの位置を適切にしてください。

使用場所

床、道路、屋上・・・

平らな地面で使用します。床面をフットで傷つけたり穴をあけてはいけない場所であれば、フラットフットが適用です。

フットラッシング

オブジェクトがあれば、フットをウェービング等でラッシングしてください。
さらに安定します。

ボーテックスの強度と安定性を高めるためには、荷重を2.7kN以内に抑え、高さと脚の長さも最小限にすることが重要だよ。アウターレッグは絶対に4本以上にしないで、三つ打ちロープは伸びやすいから使用を避けよう。ラプターフットは土や砂場、岩場で使うと安定するけど、フラットフットは滑りやすいから、平らな場所専用で救助現場では控えたほうがいいね。オブジェクトがある場合はウェービングでラッシングしてさらに安定させよう。

参考ページ:ロープレスキューについて、詳細を記載します

ガイライン

ガイラインとは物体を地面に固定し、転倒を防止するためのロープのことです。
ガイロープやテンションガイと呼ぶこともあります。

可能な限り、ガイラインの平面角度は45°以上に保つ必要があります。
状況によっては不可能な場合もあります。ただ,どんな場合でも30°以下であってはいけません。
30°以下であった場合、ガイにかかる力の大きさは、ボーテックスにかかる荷重を超えることができません。

可能であれば、ガイラインはロープを3重にしてください。
基本ガイラインは、スタティックロープ等の伸び率の低いロープを使用しますが、シングルロープは荷重がかかると伸びてしまいます。

ガイラインはボーテックスを安定させるためのロープで、45°以上の平面角度を保つのが理想だよ。30°以下だと安定しにくくなるから避けよう。ガイラインはスタティックロープを使い、できれば3重にすると伸びにくく、より安全に固定できるよ。

アリゾナボーテックスの高度な活用方法と技術的な考察

アリゾナボーテックスは単なる救助用トライポッドではなく、複雑な救助現場や特殊な状況にも対応可能な高性能ツールです。以下に、より専門的でマニアックな技術情報や活用ポイントを掘り下げて解説します。

1. ボーテックスの荷重分散と力学的考察

力の分解と合成

ボーテックスの活用では、各支点にかかる「合力」と「分力」を正確に計算する必要があります。例えば、90°の支点における滑車の方向プーリーでは、力の大きさが支点に与える負荷を増幅させるため、角度を適切に調整する必要があります。
合力(F)は支点の角度(θ)によって変化します。特に45°以下になると力が分散せず、集中負荷(集中応力)が支点に過剰な負荷を与えるため危険です。

例:力の分解と角度

  • θが60°の場合、支点1にかかる負荷は荷重の57.7%(cos60°)、支点2には50%(sin60°)の力がかかる。
  • これを基に、ロープレスキューで使用する滑車や支点の配置を最適化します。

2. レッグ(脚)のアジャストメントと応力

アリゾナボーテックスの脚(レッグ)は状況に応じて長さや角度を調整可能ですが、これに伴う応力(ストレス)も変動します。

例:脚の長さの違いと応力分布

  • 長い脚(フルエクステンション)では横方向の力が集中し、支点の安定性が低下します。
  • アジャスター付きの脚を使う場合、最大荷重が計算以上に偏るため、脚先端(フット)に過剰な荷重が集中します。

高度な救助作業では、荷重を適切に分散させるため、脚の角度を120°(正三角形)に近づけるのが理想です。

3. 高度な支点作成

コンプレックスアンカーシステム

通常の単一アンカーではなく、複数のアンカーを用いた「コンプレックスアンカーシステム」の使用が推奨される場面もあります。特に重量物を引き上げる際、アンカー点を増やして負荷分散を実現します。

方法例

  • アンカーポイントA(固定)とB(動的)を組み合わせて、マルチポイントアンカーを形成。
  • 動的アンカーにプーリーを加え、可動性と力学効率を向上。

4. フット(ラプターフット/フラットフット)の特殊活用

ラプターフットのエッジグリップ技術

起伏の激しい地面では、ラプターフットを45°の角度で地中に差し込むことでグリップ力を増幅します。砂場や軟質地面では、複数のラプターフットを連結することで安定性が向上します。

フラットフットの摩擦補正

フラットフットの滑りやすさを補正するため、摩擦増加材(例:ゴムマットや摩擦テープ)を組み合わせて使用します。特殊な状況下では、脚の基部にウエイト(砂袋など)を設置し、滑りを物理的に防止することも有効です。

5. ガイラインの張力とテンション管理

スタティックロープを使用する場合、ガイラインの張力は40~60%のテンションに保つのが最適です。これにより、過剰な荷重でロープが切れるリスクを軽減します。

テンションガイメーターの活用
テンション計を用いて張力をリアルタイムでモニタリングし、調整することでボーテックスの安定性を確保します。

6. ロープレスキューにおける荷重シミュレーション

コンプレックス5対1の機械的優位システム(M/Aシステム)を導入する際、荷重が支点に与える影響をシミュレーションします。

計算例
被荷重100kg、滑車効率85%、摩擦係数0.15の場合、各支点にかかる実質荷重を計算し、システム全体の効率を算出します。

7. 高度なレスキューシナリオでの応用

洞窟救助(ケイブレスキュー)

洞窟内部でのレスキューでは、トライポッド形状が作れない場合、Aフレームやジンポールが有効です。狭い場所では、アジャスター付きラプターフットを活用し、岩の隙間に固定します。

高層ビルレスキュー

ビル間の引き上げ作業では、イーゼルAフレームを利用し、ガイラインを屋上の固定ポイントに設定します。風の影響を考慮し、角度を45°以上に調整します。

8. 実験データに基づく安全基準

実験によると、アリゾナボーテックスに3本脚(イコールトライポッド)を使用した場合、最大荷重2.7kNでの安全係数は3倍(理論値)。しかし、脚の角度を変えると1.8倍以下になるケースもあるため、角度調整が安全性に直結します。

アリゾナボーテックスは、専門的な知識と技術を持つレスキュー隊員にとって非常に強力なツールです。ただし、物理的な力学や機材の特性、設置環境を深く理解し、正確に活用することが求められます。


コメント

  1. りゅう より:

    質問失礼します。イコールトライポット、イーゼルAフレーム設定時のガイライン(がちがちの張り込み)は必要でしょうか。転倒、落下防止措置は必要かと思いますが、フォースコントロールができていれば転倒危険は少ないと考えますがいかがでしょうか。よろしくお願いします。

  2. 佐々木 より:

    質問失礼します。
    ジンポールの
    メリット、デメリットを教えてください。
    よろしくお願いします。

    • Floyd より:

      メリット
      軽量かつ持ち運びやすい:ジンポールは、通常軽量で分解可能な設計がされているため、移動やセットアップが容易です。特にアリゾナボーテックスのようなシステムでは、状況に応じて素早く対応できる柔軟性が高いです。

      設置が簡単:シンプルな構造であるため、基本的な救助技術を持つ人であれば、迅速にセットアップできます。複雑な機械装置が必要ないため、現場での使用に適しています。

      狭い場所での使用が可能:ジンポールは狭いスペースでも使えるため、洞窟やビルの狭い間隔、深い井戸や崖など、通常の三脚などを設置しにくい場所で有効です。

      複数の作業に対応可能:単純な吊り上げ作業から、複雑なレスキュー作業まで、多様な場面で応用できる汎用性があります。角度を変えたり、他の器具と組み合わせることで、様々な状況に対応します。

      デメリット
      単一ポールによる安定性の制約:ジンポールは単一のポールで支点を作るため、他の支点装置(例:三脚など)と比較すると安定性に欠ける場合があります。特に強風や不安定な地形では、十分な支えを確保することが難しいことがあります。

      支える力に限界がある:ジンポールは軽量かつポータブルであるがゆえに、引き上げる重量に制限があります。非常に重い機材や人員を持ち上げる場合には、他の補助装置が必要になることがあります。

      適切な設置角度の調整が必要:ジンポールは正しい角度で設置しなければ、重心がずれてしまい、引き上げや降下作業中に危険が伴うことがあります。角度の調整を誤ると、救助者や被救助者にリスクが発生します。

      専用のトレーニングが必要:シンプルな設計ではありますが、適切な使用方法や安全なセットアップには訓練が必要です。特に高所での使用や複雑な救助作業では、正しい技術と経験が要求されます。

      地形や状況に左右されやすい:地形が非常に不安定な場合や、設置場所が制限されるような環境では、ジンポール単体での使用は難しく、追加の装備や支点が必要になることがあります。

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