交通事故現場では、車体の変形や押しつぶされによって、運転手がハンドルやペダルに挟まれ、身動きが取れなくなるケースがあります。本記事では、車両破壊による救出手順(ハンドル・ペダル)について、救助活動の効率化と安全性を両立する具体的な方法を解説します。
ハンドルの破壊と切断

✅まずは位置調整を確認
救助時、最初に行うべきはハンドルとシートの位置調整です。車両の多くには、以下の機能が搭載されています。
- シートスライド:シートを後方に動かして空間を確保
- リクライニング:背もたれを倒して脱出経路を広げる
- チルトステアリング:ハンドルの高さを変更するスイッチ(車種によりレバーまたはボタン)
🔍 注意点
見た目は挟まっていても、実際はズボンや服が引っかかっているだけというケースもあるため、慎重に確認してください。
座席シート

チルトステアリング
ハンドル(ステアリング)の挟まれの場合も、 最初に切断や破壊を行うのではなく、 チルトステアリングという高さ調整ボタンを押すことで位置を変えれます。
※ハンドルに挟まれているように見えても、実際はズボンや服が引っかかっているだけの場合もあるので注意
ハンドルの切断方法|資器材と切断箇所
位置調整での解放が不可能な場合は、ハンドルの物理的切断を行います。
使用資器材の選定
- 第一選択:油圧カッター(振動が少ない)
- 補助的:レシプロソー(振動リスクあり)
切断箇所の推奨位置
- ステアリングホイール下部
- スポーク部(強度の低い部分)
これにより、運転手の胸部圧迫を軽減し、脱出をスムーズに行えます。

ステアリングコラムの持ち上げ技法
ステアリングコラム(ハンドル支柱)を持ち上げることで空間を作り、身体の圧迫を除去できます。
使用機材例
- スプレッダー
- ラムシリンダー
- エアマット
- チェーン + 車軸固定

ステアリングコラム持ち上げでも、空間を作り出せます。
この場合、スプレッターやラムシリンダー、エアマットを使用します。

🛑 注意点
チェーンは必ず車軸に巻き付けてください。バンパーやボンネットなど、強度の低い部位にかけると破損のリスクがあります。
参考ページ:交通事故の際、ドアの施錠や変形によってドアが開かないことがあります。そういった場合、救助隊は要救助者への接触や救出のために破壊活動をしなければなりません。ここでは車両破壊活動について記載します。
ダッシュボード持ち上げによる空間確保
ダッシュボードとハンドルが運転手を圧迫している場合、ラムシリンダーによる持ち上げが有効です。
手順の一例
- Aピラーを油圧カッターで2箇所切断
- 拡張部にウェッジを挿入
- ラムシリンダーで押し上げる
油圧カッターでAピラーに2ヵ所切れ目を入れ、車内空間を拡張しやすくします。

ラムシリンダーを使用し押し上げます。

⚠️ 注意点
ラムシリンダーは救出経路を塞ぐ可能性があるため、使用位置に工夫が必要です。
2:00よりダッシュボード持ち上げ動画☝
拡張した切断部にウェッジを入れるのもテクニックの一つです☝
ペダルが足を挟むケースの対処法
ペダルに足が挟まり脱出できない場合は、ペダルの切断または変形が必要になります。
ペダル変形のテクニック(テープスリング法)
- テープスリングやシートベルトでペダルにリングを設置
- リングを車外に引き出し、スプレッダーで牽引力を発生
- 助手席側へ引き込むように曲げる(ブレーキペダル)
💡 実際は靴やズボンが引っかかっているだけのケースもあるため、先に衣類の確認を行いましょう。

運転者の足を挟み込んでいることが多いペダル。これを解除する手早い方法がこれです。テープスリングや事故車両のシートベルトを活用し、リングを設定。これをペダルにかけます(写真1)。車外側に引き出したリング部分にスプレッダーを設定し、車体の強固な部分や地物と共に挟み込むことで牽引力を生み、動かします(写真2)。ブレーキペダルであれば助手席側に引く方法を採ります(写真3)。
引用元:第14回 9PM 中四国訓練会・第9回 TIRAEMT in 鳥取【車両事故対応訓練会】 | 株式会社ライズ (rise-nippon.co.jp)
1:20~ テープスリングを使用しペダルを曲げる☝
まとめ|判断と技術で救出の質が変わる
車両破壊による救助活動は、的確な判断と手順により、時間短縮とリスク低下が図れます。
🔑 ポイント再確認
- 破壊前に調整機能で対応できるか確認
- 使用する資器材は振動リスクと空間確保性を考慮
- ペダル処理にはスプレッダーやスリングの応用技術も有効
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