「自宅で気分が悪くなった」「階段から転落し動けない」
このような救急要請があった際に、救急隊が到着すると開口部がすべて施錠されており傷病者に接触できないことがあります。
傷病者の救出には、開口部の破壊や解錠が必要となります。
ここでは、窓の開放方法を記載します。
鍵の解錠
まず優先的に行うのは、鍵の解錠です。
窓の鍵には基本的にクレセント錠というものが使われています。
この鍵は窓が上下に動くことにより、その振動で解錠させることができます。
解錠方法は外から見た場合、右側の窓を大きく上下に動かすことです。
手で動かすのが困難な場合、吸着盤を使用すると容易にできます。
※ロック付きのクレセント錠は、ロックされている状態であれば、外からも中からも 窓を開けることはできません
※比較的に新しい家は、窓と窓枠のスペースが狭く窓を動かすことができないためこの方法は使えません
窓破壊
前述にも記載したとおり、鍵の解錠は古い窓でしか使用できないため、窓ガラスの破壊が現場では数多くなると思います。
窓ガラスの破壊は、ガラスカッターを使用すると見栄えもよくガラスの飛散も少なく済みます。
破壊方法は外から見た場合、右側の窓のクレセント錠付近にガラスカッターを使用し、半円で切り込みを入れ、バール等で叩くと綺麗に切り込みの形でガラスが抜け落ちます。
※叩く行為の前にガラス飛散防止のため、テープでガラスを養生しましょう。
クレセント錠の構造と種類
1. 基本構造
クレセント錠は、窓が閉まっている際にレバーを回すことで、窓枠の突起部分と密着し、窓の開閉をロックする構造です。通常、窓の片側のみに設置されており、内側から簡単にロックできる一方、外部からのアクセスは難しい作りになっています。
2. 種類
クレセント錠にはさまざまな種類があり、特に以下の2つが一般的です:
- 通常のクレセント錠:単純なレバー構造で、振動や窓の動きによって開放されることがあるタイプです。この種類は古い住宅や一部のマンションでよく見られます。
- ロック機能付きクレセント錠:このタイプは、レバーに追加のロック機能がついており、内側から鍵をかけない限り動かせない仕組みです。新築住宅やセキュリティを重視した施設に多く採用されています。
クレセント錠の解錠テクニック
1. 窓を振動させる方法
通常のクレセント錠は、窓を上下に動かす振動で少しずつずらし、ロック解除することが可能です。以下が手順です:
- 外から右側の窓をしっかり掴み、上下に力強く動かします。
- 窓枠の状態や錠の緩さに応じて、数回の振動でクレセント錠が少しずつずれて開くことがあります。
※ 吸着盤の使用:窓が重く手で動かすのが難しい場合、ガラスに吸着盤を装着し、レバーとして力を加えることで効果的に動かせます。
2. ドライバーやワイヤーの使用
ドライバーや硬いワイヤーを用いることで、窓の隙間からクレセント錠のレバーを直接操作することが可能です。
- 窓枠とガラスの間にワイヤーや細いドライバーを差し込み、クレセント錠のレバーに引っ掛けます。
- レバーを手前に引き寄せることで解錠が可能です。
※ この方法は高度な技術を要するため、経験が少ない場合は実行しない方が良いです。
3. クレセント錠を使った「逆振動」テクニック
新しい方法として、クレセント錠がロックされている場合でも、逆方向から振動を加えることでレバーが少しずつズレ、解錠できることがあります。
- 左側の窓をわずかに引き離し、逆方向に力を加えます。
- 振動によりクレセント錠が緩み、ロックが外れることがあります。
状況別のクレセント錠対処法
古いクレセント錠の場合
長年使用されているクレセント錠は摩耗しやすく、振動や衝撃で開きやすい傾向にあります。こういった場合、少しの上下動作でもロックが解除される可能性が高いです。ただし、劣化が激しいと破損のリスクもあるため、慎重に操作しましょう。
ロック付きクレセント錠の場合
ロック付きのクレセント錠は、内部で固定されているため、外からの振動では解除できません。この場合は、以下のような選択肢があります:
- ガラス破壊を検討:解錠が困難な場合、ガラスの一部を切断し、内側から直接アクセスする方法が最も確実です。
- 強化ガラスの確認:一部の窓には強化ガラスが使用されているため、破壊が困難で特殊なカッターが必要です。
注意点とコツ
- 窓の隙間の確認:窓と枠の隙間が少ない場合、振動だけでは効果がないことがあるため、ワイヤーや吸着盤を使った操作が有効です。
- 破損リスクの最小化:窓を振動させる際、必要以上の力を加えると窓枠やガラスにダメージを与える可能性があるため、徐々に力を加えることが重要です。
クレセント錠の摩耗・劣化による影響と対応策
1. レバーの摩耗と解除のしやすさ
古いクレセント錠は、長年の使用によりレバーやロック部が摩耗していることが多いです。この摩耗により、窓を上下に振動させるだけで解除が可能な場合もありますが、摩耗が不均一な場合、解錠が逆に難しくなることがあります。
- 摩耗のサイン:レバーが軽く動くがロックが確実でない、もしくはレバーに遊び(余裕)が感じられる場合は、摩耗が進んでいる可能性が高いです。この場合は通常よりも少し強めの振動を加えることで、レバーが下がりやすくなり解錠が容易になります。
- 摩耗部に対する対策:摩耗が著しい場合は、潤滑剤(シリコンスプレーなど)をクレセント錠の隙間に少量注入するとスムーズに動くようになりますが、救助活動での使用は難しいため、通常は吸着盤やバールによる強制的な動作が適しています。
2. 劣化による「逆回転」リスク
クレセント錠の一部では、摩耗と錆が進行することで、通常の解錠方向とは逆方向にも回転することがあります。特に経年劣化が進んだアルミ製や鉄製の窓で多く見られます。
- 対策:逆回転が可能な場合は、通常の振動方法で解除する前に、レバーを逆回転させることで、隠れたロック解除の隙間を発見できる場合があります。劣化した金属製窓は、逆回転時にレバーが突然外れるリスクもあるため、細心の注意が必要です。
環境別クレセント錠の扱い方
1. 海沿い住宅での対応
海沿いの住宅では、塩分による錆が原因でクレセント錠が固着していることが多いです。こうした錠は通常の解錠法が難しく、工具による強制的な開放が必要です。
- 対策:スプレッドアームで窓枠を広げ、吸着盤とバールを併用して一気に動かします。塩害が進んでいる錠は、力を入れすぎると錠や窓が破損しやすいため、慎重な操作が重要です。
2. 高湿度環境下の住宅での対処法
湿度が高い地域や築年数の長い木造住宅では、クレセント錠が湿気で膨張した窓枠に押され、動きが鈍くなることがあります。
- 手法:湿気による膨張を避けるため、まず窓の外周を乾燥させることで膨張を少しでも抑えます。さらに、サーマルデバイスで錠周辺を冷却することで、少しの収縮を促し解錠のしやすさを高めます。
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